年がかわって初めての投稿です。本年もよろしくお願いいたします。

 

昨年の暮れから全国的に厳しい寒さが続いていますが、山形の冬も例外ではなく、雪もかなり積もって、年末から2週間ほどはほぼ一日中氷点下の日々が続きました。

そんな中、1月14日、山形市内で工事が行われているT動物病院の、1階壁及び2階床スラブのコンクリート打設が行われました。

1月6日(打設の8日前)の様子。 スラブ配筋がほぼ完了しています。(上の写真、以下同様)

1月13日、打設前日の様子。

先週末(1月9日)打設予定でしたが、最低気温がマイナス10度くらいになるのではという予報(実際にはマイナス8度)だったため延期しました。それからシートで養生して、内部を採暖して、予報で外気温が高くなる14日の打設に備えています。

氷点下以下の極点に低い気温の中での打設では、コンクリート中の水分が凍り、打ち上がったコンクリートの性能を低下させてしまうおそれがあるので、慎重を期して打設時期を延期したのです。

1月14日、打設当日、午前9時頃の様子。この日、最低気温が2週間ぶりに摂氏零度以上になりました。

スラブ配筋の養生用のブルーシートは外されて、写真右上の方に配置されたコンクリートポンプ車から、型枠の内部にコンクリートが送り込まれています。(上の写真はミキサー車の到着を待っている状態です。)

コンクリート打ちの日は、それまで型枠や鉄筋を組んで準備してきたところに、一日がかりでコンクリートを流し込んでいくという特別な日であり、そのため、かつては「まつり」と呼ばれ、打設が終わると祝杯を挙げて、宴を催したりしたそうです。

そのような風習は今はもうだいぶ廃れてしまったようですが、工事の大きな節目であることに変わりはありません。

この建物では、1階のコンクリートの打設量が一番多いので、工事全体の最大の山場であると言えます。

この日の生コン車の台数は約35台。生コンの総量は約140㎥です。

上の写真の右端の人が左手にもっているのが、通称「ツコツコ棒」といわれる竹の棒です。生コンが投入された箇所にこの棒差し込んで、上下に動かしながらコンクリートを確実に型枠に流し込んでいきます。

コンクリートプラントで練られたフレッシュコンクリート(生コン)がコンクリートミキサー車によって運ばれ、コンクリートポンプ車の受け入れ口に投入されます。ポンプによって、生コンは圧送され、型枠へと投入されていきます。

ここに映っているヤマコンのコンクリートポンプ車は、映画『シンゴジラ』の劇中でも使われたことでも有名になりました。そういえば、この赤色の車体のポンプ車が映画の終盤で活躍していましたね。ゴジラへの経口投与(?)のシーンで。

<リンク> 映画『シン・ゴジラ』に撮影協力しました。

コンクリートミキサー車。1台当たり、約4㎥のコンクリートを積んできます。奥がポンプ車。

上に見えるのが、コンクリートの供試体(テストピース)です。このテストピースは、生コン会社にもち帰って保管され、養生(硬化)後に強度試験が行われます。このようにして確実に強度が出ているかが確認されます。

上はフレッシュコンクリートの「スランプ」を測定しているところです。スランプは、高さ30cmの逆円錐台形のスランプコーンと呼ばれる型枠に生コンを詰めて、間を置かずにそのコーンを真上に抜いたときに、どれだけ生コンの頂部が下がるかという試験であり、これによって生コンの硬さが測られます。スランプが小さいほど、生コンの硬さは固く、大きいほど柔らかいということになります。一般にスランプは小さい方が、後々のコンクリートの劣化が少ないと言われます。一方、スランプが大きければ流動性も高く、コンクリートを狭い型枠の中にすき間なく打設していくことが容易になりますが、長期的なコンクリートの性能は低下する傾向にあります。しかしながら、良質なコンクリートにするために、スランプを極端に小さく指定しすぎると、開口部回りなどにコンクリートが回りきらなくなり、現場泣かせとなります。

もちろん、ただ打設を容易にするために、あまり大きなスランプにすることを認めるのはよくありません。かといって、スランプを低くしすぎて、型枠を外した後にコンクリートが回りきらない部分があったりしても困ります。この現場では、生コンが現場に入った状態で、スランプは18cm以下にするように監理しています。

コンクリートの打設については、このサイト(CONCOM)で詳しく書かれていますので、より詳しくお知りになりたい方はご覧ください。

階段の打設。今回は一度スラブを斜めに打って、後日、段の部分をその形状に打ちます。

階段は斜めになっていて、壁のように垂直に立っているところに上から流し込んでいけばいい訳でなく、また普通の床版(スラブ)のように上を開放して水平にならしていけばいい訳でもないので、打設が難しいところです。ラスという金網で半分ふさぎながら打っていきます。

壁の上部の隙間にコンクリートを投入している様子。鉄筋の間に見えるオレンジ色の管は「スリープ」と呼ばれ、コンクリートの壁や床板に打ち込まれ、電気の配線などを通す役割をします。

壁の打設は、最初、階高の半分くらいまで打って落ち着かせてから、建物を一回りして2巡目で2階スラブの直下まで打設します。コールドジョイント(コンクリートが完全に固まってしまってから次の生コンを投入した場合に起こる、一体化していない不連続面のこと)ができないように、適正な間隔で打ち重ねていきます。

壁型枠にフレッシュコンクリートが投入されている様子。右の赤い上着を着た人がもっているのが高周波バイブレーターで、生コンに振動を与え、型枠にすき間なく入っていくようにしています。コンクリート打ちの現場で聞かれる、独特の振動音はこのバイブレーターから発しているものです。バイブレーターはかけすぎると、コンクリートの成分(セメント、水、骨材)が分離してしまうので、かけすぎないように注意が必要です。また、その先端が型枠に当たると傷が残ってしまうので、鉄筋の間の狭いすき間に、気をつけながら挿し入れていきます。

打設時の内部空間の様子。型枠はコンクリートの側圧に耐えるようにバタ角という鋼管でしっかり固定されています。壁の手前に垂直に立っているのが、型枠支保工用のパイプサポートです。生コン打設時にスラブ(床版)や梁にかかる鉛直力を下階の床に伝えて、コンクリートが硬化するまでの間、支える役割をします。コンクリートに一定の強度が出るまで、このサポートは外すことができません。

上での打設と同時に、スラブ(床版)の下の内部空間では、木づちによって「叩き」が行われています。これも、型枠にすき間なくコンクリートを流し込んでいくために行われるものです。結局、このような原始的なやり方が一番確実なのです。壁の反対側にも、同じように「叩き」担当の人が配置され、同じように少しづつ移動しながらコンクリートを鎮めるように叩いています。良質なコンクリートとするために、スランプを低めに設定すると型枠に生コンが回りにくくなるために、この「叩き」のような手間が重要になってきます。

から叩きは禁物。また、打設がすでに済んでいるところを叩くのもよくない。ちょうど、生コンが投入されてきたところを、叩いたときの音の違いで確かめながら、ハンマーを振り下ろす位置を動かしていきます。微力ながら私たちの事務所からも若いスタッフが応援で参加させてもらいました。熟練した現場の方々には足手纏いだったかもしれませんが、得難い経験をさせていただきました。ありがとうございました。

午後3時頃。壁の型枠にすべて、コンクリートが投入し終わると、床スラブへのコンクリートの打設が行われます。レーキ(トンボ)で均しながら全面にコンクリートを行きわたらせていきます。

この段階で、スラブ面よりも上に出ている鉄筋は、「差し筋」とよばれ、次の打設時のコンクリートと一体化させるために、あらかじめ入れておくものです。

2階床スラブへの打設。

翌日、1月15日の午前中の様子。打設当日は未明(翌午前2時半頃)まで、コンクリートスラブの表面を丁寧に仕上げる左官工事「金コテ押え」が職人さんたちの手で行われていました。お疲れ様でした。

外気温が低いので、スラブ下(1階内部)は灯油炊きのジェットヒーターによる、採暖養生が行われています。

コンクリート打設には、生コン車、ポンプ車、上でホースを操る人達、バイブレーターをかける人、竹の棒でつく人、下でたたく人、コンクリートの試験を行う人など、多くの人々のチームワークが必要です。コンクリート打ちは、いまだに人海戦術でいくしかなく、機械化、自動化が難しい仕事です。コンクリート建築をつくる工程は、型枠をつくって、コンクリートを流し込んで、それが固まったら型枠を外すというように、鋳物をつくる様子に似ていますが、まさに工芸品をつくる時のような細やかな気遣いが要求されます。

かつてのように「まつり」と呼ばれることは少なくなったのかもしれませんが、いまだにコンクリート打ちは、あたかも神輿(みこし)を担ぐときのように全員が呼吸をひとつにして行われる一大行事です。もし呼吸が合わなかったら、品質にも当然影響します。打設後にも丁寧に養生しなければならないことも含めて、大切に育てるようにして手間をかけてつくっていかねばならないので、しばしば「コンクリートはいきもの」といわれます。

今回のコンクリート打設は、気温等を考慮し、慎重を期して、比較的良好な天候を選んで行われ、現場の士気も高く、いい結果が残せたのではと思います。脱型後のコンクリートの仕上がりが楽しみです。

一つ上の全体写真では、さっそく、2階の壁型枠の作業に取り掛かるための足場の準備が始まっています。この建物は3階建てなので、あと2回、今回と同じようなプロセスがあります。(打設の規模は今回よりも小さくなりますが。)

一つの大きな山場は越えましたが、これからも気を引き締めてのぞんでいきたいと思います。