現在、山形県鶴岡市で進行中のプロジェクトです。

土地区画整理事業の中で整備される、公園及び公園内施設の設計を手がけました。

2016年後半から足掛け6年にわたり携わっています。

地域全体を含んだ検討用模型  中央付近(道路がカーブしているところ)に公園2、その右斜め上(北東)に公園1があります。

 

ここ数年、公園が静かなブームです。公園の使われ方が、より自由に、より多様になってきています。

 

2年ほど前には一般向けの雑誌BRUTUSでも「LIFE is PARKと題して、公園特集が組まれました。

そこでも取り上げられていましたが、例えば東京都豊島区南池袋公園街を変えたと話題となりました。

当初は、そのような近年の官民連携した公園の活用の流れに沿って、地元行政の意向も反映して、(上の模型で公園2の右横に青色のボリュームとして表現された)商業施設との垣根を取り払って、一体となった公園のあり方が模索されました。(公園2に関して)

<参考>官民連携による都市公園魅力向上ガイドライン

 

(打合せ資料より)

 

大都市近郊では、いわゆる「サードプレイス」として、官民連携した公園が増えつつあります。調査を進めていくと、大都市圏では従来型の店舗と駐車場だけのショッピングセンターはあまり流行らなくなってきており、公園と融合したタイプが増える傾向にあるということがわかりました。

 

(打合せ資料より)  この打ち合わせを行ったのはコロナ禍の前のことでした。最近、TV番組で、新型コロナウィルスの流行の影響で旅行や外食の機会が激減し、巣ごもり消費が増えているために、コト消費からモノ消費への逆行現象が一部で起こっていると報道されていましたが、社会が豊かになって物質的に充足されてくると、付加価値(≒コト)を求めるようになるという本質は変わらないのだと思います。

 

 

そのような先進的事例を、視察に行ったりもしました。

 

 

公園2の計画では、私が関わり始めた時点では公園の形や位置も決まっておらず、商業施設と駐車場を含めた敷地全体の中で、約5000㎡の公園をどこに配置するかという、マスタープランから検討から始めました。

 

官民連携のあり方を、先行事例を参照しながら分析し、本計画に役立てようと作成したレポート

 

 

公園2の初期検討案。店舗の中央に芝生広場を配置する案も検討された。

 

 

敷地全体に帯状に公園を配置する、公園2のA案

 

A案を発展させたA’案

 

A’案のイメージパース この時公園敷地内(画面右手)にあった桜の木は、都市側の街路樹(同左手)に置き換えられて、最終案に生かされることになった

 

他にもさまざまな配置案が検討されました。

 

 

 

 

基本的には公園と商業施設が従来にはなかったような形で関係性をつくることを目指して、複数の店舗の間に公園を配置するような案も含め、いくつかの公園の配置案を提示したのですが、結局はテナント側からの「(あまり変わったことはせずに)商業施設群は公園と明確にゾーン分けして、商業施設としては道路際に駐車場、奥に店舗をまとめる従来型配置にしたい」という強い要望で、公園と商業施設の、官民連携した一体的整備というコンセプトはだいぶトーンダウンすることになりました。

結果として、公園2の敷地は、商業との間に直線的に引かれた境界線で区画され、西端の湾曲した道路沿いにぼぼ独立した形で配置されることで決定しました。商業側とは、境界際のフェンスに設けられた幅一間ほどの出入口で、何とか人の行き来が担保されるように折衝しました。

公園2の最終案のもととなったF案のパース

 

敷地が確定した後、商業を合わせた計画地全体の隅に公園が配置されていたためにあまり有望と思っておらず、どちらかというといわゆる「捨て案」に近かった、道路の湾曲を活用して造形した案が浮上してきました。

公園2の最終案

この二つの楕円形のみどりの丘のモチーフは鶴岡の特産品の「だだちゃ豆」。ちょっと「ベタ」ですが(笑)

「だだちゃ豆」は鶴岡で伝統的に栽培されてきた枝豆の一種で、独特の甘みと濃厚な旨味があるのが特徴で、全国的にも有名になりました。

直喩的なイメージの後先はさておき、幾何学的に整理しながら二つのみどりの丘を検討しているうちに、単純な造形の中にも面白みがあり、場所に呼応しながらさまざまな活動を生み出す原動力をもつ案として、人々に長く親しまれる可能性をもっていると感じ始めました。

いくつかあった案の中で、はじめはあまり「推し」はでなかったものが、いろいろな事情が重なって採用案となりました。もちろん、結果としてはこれでよかったと思います。

 

下のパースが公園2の完成予想図です。

全景。二つの楕円形の芝生のマウンドがあります。一帯の街路樹やその植樹帯も監修しましたが、桜の木(ジンダイアケボノ:開花時期や花の特徴がソメイヨシノに似ているが、てんぐ巣病にかかりにくい。)を植える予定です。 奥に見える山は月山。

 

街路樹の植樹枡の位置の検討
街路樹の立体的な見え方をシミュレーション。この時は、とがった形の樹形を想定していた。

 

街路樹の樹種候補。道路の管理者である鶴岡市との協議を経て、街路樹(高木)の樹種は最終的に、この候補の中にはない桜(ジンダイアケボノ)が選定された。

 

街路樹と植栽帯の形状、足元の低灌木等の検討

 

 

 

マウンド形状やその高さは多くのパターンのシミュレーションを経て決定されました。

みどりの丘を駆け回る子どもたち

 

庄内平野は白鳥の飛来地で、鶴岡市の大山下池にも毎年コハクチョウの群れがやってきて越冬します。

大山下池に舞うコハクチョウ(やまがた庄内観光サイトより)

みどりの丘を受ける形で対峙するウォールは、翼を広げて大空に羽ばたく白鳥のイメージにも重なります。

ウォールに設けられたスリットは、意匠上のアクセントであると同時に、見通しが利くことで防犯性を高めたり、適度な風通しを確保したりする役割も担っています。

ウォールと一体となったあずまやの下からみどりの丘を見る。 日常の風景

休日は一転して、イベント会場にもなる

みどりの丘を観客席、ウォールの前をステージにしてイベント(コンサート)を行っている様子。ウォールは舞台としての場を形成するだけでなく、音響効果を高める反射版にもなって、観客に音を届けやすくします。

奥に見えるのは月山です。丘の上にのぼれば、近隣の住宅の屋根をかわして、周囲の山々も眺めやることができます。

 

冬はそり遊びもできます。このパースの奥に見えるのは鳥海山。

 

こちらは鳥海山の方を向いたアングルです。手前のフタコブのみどりの丘と鳥海山の山並みが、それぞれ近景、遠景として呼応しており、その対比も面白いのではないかと思います。

6台分の駐車スペース(うち車いす用2台)があります。右端に見えるのは公衆トイレです。

公園2の舗装は車両の進入が可能としており、ウォールには電源がとれるようにコンセントを一定間隔で設けています。朝市や、キッチンカーなどを使った軽トラ市も開催可能となっています。

 

この地域は毎年4月中旬から下旬に桜の花が咲きます。鶴岡公園は山形県内でも屈指の名所で、その時期に鶴岡桜まつりが開催されます。

やまがた庄内観光サイトより
鶴岡桜まつり(やまがた庄内観光サイトより)

この茅原北公園の一帯にも、街路樹を含めて桜の木を数多く植えましたので、10年後くらいには新しい桜の名所になっていればいいなと思います。その時には、鶴岡桜まつりと連動して、公園2に出店などが出れば面白いですね。

鶴岡桜まつり(同上)

 

以下のパースが公園1です。公園1は周囲が住宅地や福祉施設などに囲まれている土地で、最初から敷地の位置、形状は確定していました。敷地面積は公園2の約半分。公園2から歩いて2~3分ほどの距離です。

茅原北公園1の全景。こちらは、公園2とあえて位相を反転させて、楕円形のくぼみをつくっています。公園1と2は、「陰」と「陽」、一対のものとして計画しています。

 

 

公園1の検討図

 

公園1のすり鉢状のくぼみ(クレーター)もイベント広場として使うことができます。

 

公園1の冬の風景

 

公園1と公園2はそれらを巡る、ウォーキング、ジョギングコースを形成します。

 

「歩いて暮らせるまちづくり」は平成11年に閣議決定された国の施策ですが、現在も「まちなかウォーカブル推進事業」といった形で同様のまちづくりが進められています。

 

(打合せ資料より)

 

「世界中の多くの都市で、街路空間を車中心から“人間中心”の空間へと再構築し、沿道と路上を一体的に使って、 人々が集い憩い多様な活動を繰り広げられる場へとしていく取組が進められています。 これらの取組は都市に活力を生み出し、持続可能かつ高い国際競争力の実現につながっています。」(国土交通省HPより)

公園1(左)と公園2(右)
公園1
公園2

地域の人々の生活にいろどりを添え、安らぎと活力を与えるような、新しい環境をつくることができたらと思っています。

春ごろから工事が始まり、監理を行って、2021年秋に竣工予定です。

 

(設計協力:E‐DESIGN)