先日、愛知県の豊田市美術館に立ち寄る機会があったので、このブログで紹介します。
豊田市美術館は、建築家谷口吉生の設計です。本日は文化の日ですが、谷口氏は今年度、文化功労者に選定されました。父親の谷口吉郎と親子二代の受賞ということも話題となりました。
1983年、山形県酒田市に竣工した土門拳記念館(日本芸術院賞受賞)で頭角を現し、その後も多くの優れた美術館建築をつくり続けています。
豊田市美術館は、1995年竣工の建物で、発表当時話題となり、そのころ住んでいた大阪から見に行きました。すみずみまでよく考えられた空間構成やディテールに感動した記憶があります。
今回、以前から決まっていた、愛知県の会場で行われる用があり、その帰りに少し寄り道しました。(その用とは実は、グッドデザイン賞の二次審査会場(セントレアの近くの愛知県国際会議場)への模型やパネルの搬入と設営でした。グッドデザイン賞の二次審査は東京オリンピックとほぼ同時期に行われたため、例年東京の近郊で行われる二次審査の会場が、今年と昨年に限り、首都圏以外の地域に変更になったようです。)
四半世紀ぶりの再訪となりました。
美術館へのアプローチ。駐車場で車を降りて、数十mだが、森を抜けていく感じ。
ランドスケープデザインは、アメリカのピーター・ウォーター。
建物までは十分な引きがとられており、森を抜けると建物の全貌が姿を現す。
一見、単純な四角い箱に見えますが、その最初の印象を裏切るような多様な空間体験が、来訪者を待ち受けています。
このスロープは、どちらかというと帰り道用だが、このような園路(斜路・階段)を含め、全体に回遊性の高い動線計画になっています。
企画展として、モンドリアン展が開催されていました。(2021年9月20日で終了しました。)
竣工から25年以上も経っているとは思えないほど、きれいに保たれていました。
調べてみると、竣工20年目の節目に、1年をかけて改修工事を行い、2015年リニューアルオープンしたようです。
細かい部分は少し変わっているのかもしれませんが、基本的な構成やディテールは変わっていないように思います。
25年以上の時を経ても古さを感じさせないのは、改修工事がなされたことや、日頃のメンテナンスがよいこともあるでしょうが、建築のコンセプトやディテールの完成度が当初より高く、洗練されていたことも大きな要因だと思います。
チケット売り場
モンドリアン展 会場内 天井高は結構高い。(6.6m)


この展示室が一番天井高が高く、9.6m。
谷口吉生氏の建築には、空調吹出口や感知器類、誘導灯などの設備関連機器をはじめとする夾雑物が極めて少ないことにいつも感心する。何もしていないようにみえて、このようにすっきりとした空間をつくるのは至難の業で、完成までには数多くの人知れぬ苦労があったものと推察される。美術作品に没頭するための環境として、一つのもっとも優れた答えを導いている。

天井高や、自然光の導入方法が、展示室によって、(ほとんど全部)違います。美術作品を良好な環境で鑑賞できるだけでなく、その背景としての空間の変化も同時に楽しむことができます。
壁面から、柔らかく制御された自然光が入ってくる展示室。
遠くまで、街の風景がよく見渡せる廊下。ところどころにホッと息がつける場所があり、緊張と緩和が交互に訪れ、全体として隙のないデザインでも、気疲れするという印象はない。

こちらの展示室の天井高は、4.0m。
さりげなく、グスタフ・クリムトの絵画が。
別館への連絡ロビー
水のなかに泡による円環が浮き出して見える。(おそらく、ピーター・ウォーカーの作品)
屋外展示空間。鏡のように見えるのは、ダニエル・ビュランの作品。
別館の高橋節郎館。(文化勲章を受章した漆芸家)
彫刻のある前庭。
もちろん、床、壁、天井の目地はぴったりそろえてある。
作家の紹介ビデオが流れる、休憩スペース(導入部)。天井の円形のトップライトがアクセントになっているが、全体でみたら少しふつうの空間。
展示室1。天井高4.66m。
蒔絵の施された、ピアノとハープ。右奥へ進むと・・・
自然に対して開かれた休憩室がある。
展示室2,天井高3.2m。
ほぼ一筆書きで、受付に戻ってくる
この鏡も現代美術ですが、子どもたちや若いカップルは、かくれんぼなどをして楽しんでいました。
エントランスコートを上から見る場所にたどり着く。(キャノピー上の汚れが若干気になる。ここはマメに掃除してもらうしかないか。)
来館時、はじめに見たスロープをおりていく
最初に訪れた場所へ。左に見える鉄の塊はリチャード・セラの彫刻。
すこし駆け足でこの美術館を巡ったのですが、展示されている美術作品だけでなく、美術館の空間そのものに癒され、訪れる前よりも何だか少し心が整ったような感じになっていることに気づきました。
