前々回に紹介した、上海外灘(バンド)に訪れた後に、川向うにある、上海中心大廈に行き、展望台まで上ってきました。高さは632mで、アジアで最も高く、世界でもブルジュ・ハリファ(828m)に次ぐ高さの超高層ビルです。
中華人民共和国上海市浦東新区に位置しています。2008年11月29日に着工し、ついこの間の2016年3月12日に完工した建物です。
上海中心は、浦東新区の陸家嘴金融貿易区の、東泰路・銀城中路・花園石橋路・陸家嘴環路に囲まれた街区(Z3-2地区、以前は陸家嘴ゴルフ練習場のあった場所)に建設中の超高層ビルで、陸家嘴金融貿易区の3棟の超高層ビルの一つ。他は1998年に完成したジンマオタワーと、2008年に完成した上海環球金融中心である。ジンマオタワーは上海中心の北隣、上海環球金融中心は上海中心の東隣にある。(Wikipedia「上海中心」より)
上海環球金融中心は日本の森ビルが手掛けたビル開発です。設計はKPF。
設計に当たり、発注主の陸家嘴集団は建築設計競技(コンペ)を行った。一次コンペではアメリカのスキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル (SOM) やコーン・ペダーセン・フォックス (KPF)、中国の上海現代建築設計集団など名だたる設計事務所が参加した。2008年初頭の三次コンペにはアメリカのゲンスラー社による「龍型」のビル案と、イギリスのノーマン・フォスター率いるフォスター・アンド・パートナーズの「尖頂型」のビル案が残ったが、2008年6月にゲンスラー社の案が勝利した。(Wikipedia「上海中心」より)
ゲンスラー社は、アーサー・ゲンスラーによって1965年にアメリカに創設された、現在では5000人の所員を擁する巨大設計事務所。(→日経ビジネスの記事)
建物は、9つの円柱状の建物が、ダルマ落としのように積層した構造になっている。その外側を、ルーローの三角形の頂部を丸めたような平面の外皮が、回転しながら(ひねりながら)、その大きさを徐々に相似縮小しながら上に上っていくような造形で覆っている。
内皮と外皮の間は9つの分離されたアトリウム(吹き抜け空間)があり、上海市民に開放されているという。
最上部には展望台があり、世界で最も高い外気に露出した展望台となる。ゲンスラーのデザイン監督であるマーシャル・ストラバラ (Marshall Strabala) は、建築ウェブサイトの E-Architect.co.uk の取材に対して、上海中心のデザインは「中国のダイナミックな未来」を表現していると述べた。(Wikipedia「上海中心」より)
上海中心のデザインは、エネルギー効率の向上や持続可能性についても考慮されている。ガラスのファサードは、ビルにかかる風圧を24%削減するように設計されており、これによってビルを支えるのに必要な資材をも減らすことができる。螺旋状にねじれたガラス壁は雨水を集められるようになっており、ビルの空調や暖房に利用される。ビルが必要とする電力の一部は風力発電でもまかなわれる。(Wikipedia「上海中心」より)
展望台へのエレベーターにいたる前に、世界の超高層建築の歴史や、この建物の特徴に関する解説が、模型や映像付きでなされている。
E-Architect.co.uk の取材に対して Marshall Strabala は、上海中心は高さ300メートル超の超高層ビルでは初めて二層の外壁を備えたビルになること、この特徴が魔法瓶のようにビル内部の熱や涼しさを外へ逃がさないようにできることを説明している。上海中心の建築主は、このビルが持続可能な建築物・緑の建築として、中国緑の建築協議会 (China Green Building Committee) やアメリカ緑の建築協議会 (U.S. Green Building Council, USGBC) からの認定を得ることを期待している。(Wikipedia「上海中心」より)
超高層と上海中心の学習が終わると、世界最速のエレベーターに乗って、119階にある展望台へと向かう。
分速1,230m(秒速20.5m)のエレベーターは、「世界最速のエレベーター」としてギネスブックの世界記録に認定された。製造したのは、日本の三菱電機。(→エレベータ・ジャーナルに掲載された記事)
あっという間(地下2階から地上119階までたった53秒)に、展望台に到着。しかし、強いGを感じることはほとんどなかった。コンピューターで絶妙にコントロールされているのだろう。
東方明珠電視塔が竣工した二十数年前とは違い、高さや奇抜さを競うだけではなく、世界の建築技術の粋を集め、デザイン的にも優れた超高層建築が中国には実現しています。
二十数年前といえば、Windows95が話題となり、設計事務所がようやく2次元CAD(Computer Aided Design)を使い始めた頃。コンピューターの性能も、それから現在までに飛躍的に向上し、3次元CADはもとより、構造、設備などの情報も含めてコンピューターの中で仮想の建築を構築して、そのデータをもとに現実の建築を建設していくBIM(Building Information Modeling)の技術も普及しつつあります。それらの、コンピューターを援用した最新の設計技術がなければ、この上海中心大廈は基本構想を描くことすらできなかったでしょう。
東方明珠電視台(1990年着工)と上海中心大廈(2008年着工)をほぼ同時に見て、その違いがそのまま、この二十年間のコンピューターに代表される科学技術の長足の進歩を映しているようで、その想像を超えたスピードに、一瞬、気の遠くなる思いがしました。
あまり詳しくはありませんが、家庭用ゲーム機で言えば、スーパーファミコン(90年発売)とPlay Staion3(2006年発売)の性能(描画能力)くらいの差異が、外観に表れているような感じではないでしょうか。そして、今はさらにその先をいっている訳です。
この四半世紀は、建築における最先端の表現が、コンピューターの性能に左右されてきた時代でもあったと思います。今までになかった目新しい形態を我先にと競い合うような雰囲気すらありました。
しかし、建築を現場でつくるのはいまだに人間の力です。基礎の施工の様子をみても、自動化されておらずいまだ人海戦術なのがせめてもの救いです。
(中国でも、日本と同じように、今後、職人不足が深刻になるだろうと言われていますが、その問題については別の機会に譲ります。)
基本的に現地一品生産の建築においては、ロボット化はなかなか難しいかもしれません。しかし、設計の分野においてはAI(人工知能)が処理できる領域も徐々に増えていくでしょう。クリエイティブな分野はAIでは置き換えられないという話もありますが、果たしてそう言い切れるのか。ディープ・ラーニングのような手法で、囲碁や将棋のような高度な知的ゲームでも人間に勝利できるようになったAIは、やがて建築の分野でも本格的に活躍するようになるのかもしれません。
経験を重ね、五官をフルに働かせなければできない建築の仕事は、機械にはできるはずがないと言いたいところですが、100%そう言い切れる自信はありません。
建築に求められるのは、最後は安心感です。自分の住む家の設計は人間に託したい、そんなクライアントの贅沢な思いに応えることが、未来の建築家の役割になるのかもしれません。
コンピューター技術の進歩で切り開かれる新しい建築の可能性もある一方で、古典的な建築のもつ空間の質のようなものは時代を超えて残っていくでしょう。
二十数年前のスパコン並みの性能のコンピューターを我々は「スマホ」として常時持ち歩くようになりました。(→Wikipedia 「FLOPS」)
そのことで確かにいろいろと便利にはなりましたが、人生の豊かさはそれとはまた別の次元にあるような気がします。そして便利さは人間は堕落させる側面もあります。
そういいながら、コンピューターの進化は、経済競争の原理も手伝って、人の知的活動の大半の分野をAIが代替できるようになるまで止むことはないでしょう。
人間のAIに対する総合的な優位性が保たれたまま、どこかでそのゲームが飽和点に達する日がくるなら、その時には何かまた違った価値が再評価されてくることもあろうかと思います。
人が或る空間にいて、しっくりくる、落ち着くというような感覚は、人にしかわからないのではないか、そう信じたいです。
「上海中心大廈」は、現時点における人類の科学技術の到達点をリアルに体現し、(基本的に)静止した物体として可視化したものとして、非常に興味深いものでした。中国、上海という場所性を超えて、現代を表象する建築の一つではないかと思います。