1月10日に、六本木ヒルズ52階の森美術館(東京シティ・ヴュー)で行われている、「フォスター+パートナーズ展」を見てきました。
I went to the exhibition “Foster+Partners ARCHITECTURE, URBANISM ,INNOVATION” held at Mori Art Museum( Sky Gallery, Tokyo City View), 52F, Roppongi Hills Mori Tower.
展示内容はとても充実しており、大迫力の模型も含め、大変見ごたえのある展覧会でした。(展覧会チラシ、写真はドイツ連邦議会新議事堂 ライヒスターク)
ノーマン・フォスター(1935~)は現代イギリスを代表する建築家で、家具から建築、都市計画まで幅広く手掛けています。
以前はフォスター卿(Sir Norman Foster)と言っていましたが、今は格がさらに上がって、テムズ・バンクのフォスター男爵(Baron Foster of Thames Bank)となっています。一代貴族で、メリット勲章を受章。国際的な建築賞は、プリツカー賞はじめ数多く受賞しています。
私が学生のころから世界の第一線で活躍しており、当時は「香港上海銀行」が大きな話題となっていました。
「ドイツ連邦新議事堂」、「大英博物館グレートコート」など、世界中で多くの建築を手掛けてきて、80歳の今でも衰え知らずの活躍をしています。
日本では、東京御茶ノ水にあるセンチュリー・タワー(現・順天堂大学11号館)の他、いくつかの住宅を手掛けています。
思っていたより日本での仕事は少ないのだなと気づきました。
今回は、意外にも「フォスター+パートナーズ」の日本初の大規模展覧会ということです。
英語タイトルで、ARCHITECTURE(建築)、URBANISM(都市)までは、建築家の展覧会のタイトルとして普通だと思うのですが、INNOVATION(革新、新手法)がついてるのがユニークで、興味深く見ました。
(日本語の、展覧会の副題が「都市と建築のイノベーション」になっていますが、英語では3つの単語が並列されているので、フォスターの意図は英語の方によく現れているのではないかと思います。)
最初に、パネルで、基本理念が述べられており、そこから、テーマごとに具体的な作品の紹介となります。
フォスターの事務所は、全世界で1000人以上のスタッフがいる、個人の建築家の名を冠した設計事務所としては普通ではありえないような、巨大な組織だと聞いたことがあります。(きちんとした裏付けは取れていませんが、かなり大きな事務所であり、アーキテクトだけではなく、リサーチやプレゼンテーション、模型作りや素材の研究開発などを行う専門の部署があることが今回の展覧会でわかりました。)
ほとんどのプロジェクトにおいて、工事段階でも積極的に関与し、現場を主導し監理する。・・・完成後は、今後の仕事を高めるために必要な情報を得るため、プロジェクトのレビューを行う。(原文ノママ)
「フラーは、死の直前の1983年、オートノマス・ハウスの設計についてフォスターらと対話を繰り返していた。フラー家のためにカリフォルニアにひとつ、フォスター家のためにウィルトシャーにひとつ、2つの住宅が予定されていた。二重皮膜のジオデシック・ドームであり、それぞれに個別に回転する内側と外側の皮膜の間には、温かい空気と冷たい空気が循環する。クリマトロフィスの内部のように、植物による冷却特性が内部の微気候を生み出すために利用されていた。」(会場内の説明文より)
次に出てくる大英博物館・グレートコートなどもそうですが、フォスターは古い建築に新しい要素を加えて甦らせる「保存・再生」の名手でもあります。
このドイツ連邦議会は戦前から使われていた古い議事堂にガラスのドームをかけることで新しい生命を宿らせた「保存・再生」の好例で、今回の展覧会のポスターにも使われたフォスターの代表作です。
歴史ある隣人との対話、古代ローマ時代の寺院と調和する現代建築
レンバッハハウス美術館/Lenbach haus (ミュンヘン、ドイツ/Munich, Germany) 2002-13
これも、「保存・再生」の一例です。
いわゆる日本のバブル経済の時期に、スーパーゼネコン各社が競い合うように、超・超高層の巨大建築都市のようなものを提案していました。そのうちの一つが、大林組が依頼して、ノーマン・フォスターと共同でコンセプトをつくった、このミレニアム・タワーです。この模型だけが、明らかに他と模型の縮尺が違いますね。なんせ高さ800m、150階建てですから、もし同縮尺でつくったら天井を突き破ってしまいますね。
「タイン川に面したセージ・ゲーツヘッドは、国際的名声を誇る地方の音楽堂であり、旅行先として毎年50万人が訪れている。建物には3つのオーディトリアムとこの地区の音楽学校が入り、ノーザン・シンフォニア楽団とフォルクワークスの拠点として、民族音楽、ジャズ、ブルースといったパフォーマンスの発展を支援している。(中略)この複合施設は、空間の形に合わせて伸縮しているひとつの屋根の下に集められている。コンコースには、カフェ、バー、ショップ、チケット売り場があり、都市のリビングルームとして、この地域の河岸再生という刺激的な計画の中心的存在となっている。」(会場内解説文より)
そして、単体の建築や土木工作物だけでなく都市計画も手掛けています。
ここからの展示は「INNOVATION」がテーマ
世界初の商業用の宇宙港で、建物はすでに竣工しています。
そしてさらに地球を飛び出して、太陽系の他の天体にまで。
アップル社関連の施設の展示のみ、撮影禁止でした。
プロジェクトの数の多さにも驚きましたが、家具、住宅という身近なところから、駅、空港、橋、そして都市計画までを手掛ける幅の広さ、人間の生活環境をミクロからマクロまですべて一人の人間が考え、デザインしていることがすごいと思いました。そして、プロジェクトが行われている地域も母国英国やヨーロッパにとどまらず、アジア、中東、アメリカなど世界各地に及んでおり、さらには大気圏外の、月や火星にまで彼の構想は膨らんでいます。
むろん、現在の彼の広範にわたる仕事は、彼のアイディアや思想に基づいて働く、少なくとも数百人(もしかすると千人を超える)スタッフによって支えられています。そのチームワークの妙も、展示作品から読み取れます。
そして、この展覧会では、「フォスター+パートナーズ」が、比較的小さなスタジオから、次第に現在のような大組織事務所へと成長していったさまも、垣間見ることができます。
六本木ヒルズの展望台をつかった、あまり本格的でない展覧会かと思っていましたが、充実した内容の素晴らしい展覧会で、フォスターの建築哲学や、仕事の仕方、プレゼンテーションに至るまで学ぶべきことが多かったです。
建築模型やドゥローイングは、直射日光が入ってもあまり問題がないので、都市を観察しながら展示をみるという今回の試みは、完全に外部から閉ざされた空間で行うよりも、よかったと思います。
図録があれば、ぜひ購入したかったのですが、つくっていないようで残念でした。
2月14日まで開催されているようです。東京近郊にお住まいの方はもとより、遠くにお住まいの方も、一見の価値のある展覧会だと思います。建築が専門でない方でも、迫力と緻密さも併せ持つ模型を見るだけで楽しめるだろうし、プレゼンテーションから多くのインスピレーションを得ることができるのではないでしょうか。