11月22日に訪れた、和歌山県立近代美術館です。1994年竣工。

私は2月まで関西に住んでいたのですが、見に行く機会がなく、今回が初めてでした。高野山が目的地だったのですが、その途中で立ち寄ったのです。

この日は、和歌山県の「ふるさと誕生日(県域が定まった日)」ということで、全館無料で見ることができました。

数多くの佐伯祐三の作品を含め、多くの日本、西洋の近代絵画を鑑賞することができました。

和歌山県立近代美術館は、次回に紹介する、和歌山県立博物館と同時に計画され、施工も一体的になされ、オープンも一緒でした。

設計は黒川紀章(1934-2007)。メタボリズムの旗手と言われ、その後、都市計画についても発言力をもっていた建築家。都市計画に関する本は私も読みましたが、よいことを書かれていました。京大建築学科卒業後、東大大学院丹下健三研究室に進学。在学中に「黒川紀章建築都市設計事務所」を設立。

メタボリストとしての代表作として中銀カプセルタワーがあります。若いころには山形県での仕事も多く、寒河江市庁舎は修復・保存され、現在でも庁舎として使われています。東京六本木の国立新美術館も黒川氏の作品です。

この頃はメタボリストというよりも、共生の思想を唱え、近代建築に和のテイストを取り入れたようなデザインを試みていた時期でしょうか。

設計は1990~91年で、バブル末期です。設計完了とほぼ同時にバブルがはじけたものの、公共事業のため継続して工事が続けられ、竣工まで至った事例です。施工は竹中・清水・戸田JV。

過剰な装飾的要素、贅沢な空間、素材の使い方など、良くも悪くも、バブル期の建築のにおいがします。建築家には自分の思いのままつくることができて、よい時代だったでしょう。

メンテナンスの大変さが実際のところどうなのかはわかりませんが、通りから見てもよく目立つランドマークになっているし、それなりに活用もされているようですから、過剰な要素に対する維持費が気になりますが、バブルがはじけた後にこのような建築が残されたことはそれほど悪くはなかったのではないでしょうか。市民の声も聞いてみたいところですが。

カギカッコ内は、竣工当時の新建築に載っていた解説文です。

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博物館側から美術館入り口を見る。和歌山城を望む。「灯籠」が特徴的だが、照明や造形的なアクセント以外に、換気・採光などの機能はあるのだろうか?池の水は抜かれているが、1年中こうなのだろうか?

「和歌山市の中央部,岡山丘陵に位置する本計画地は,和歌山城に対面し,奥山公園を敷地内に取り込んだ緑豊かな地域である.前面道路である三年坂通りと敷地とのレベル差は約6mあり,道路拡幅計画に合わせて,その前面道路との間に緩勾配で開放的な法面植栽帯を設け,敷地との緩衝地帯としている.」

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エントランスホール

「建築は,地下1階,地上2階の3層,地階は美術館・博物館共通の91台収容の駐車場および両館それぞれの収蔵庫,搬出入口などがあり,敷地の高低差を利用して西側道路からほぽフラットに進入することができる.」

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展示ホール

「美術館1階はエントランスホール,ミュージアムショップ,常設展示室,美術情報コーナー,管理部門などを配置,2階に企画展示室,オーディオビジュアルルーム,夜間でも独立して運営されるテラスつき喫茶レストランからは,和歌山城を望むことができる.」

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2階へのぼる大階段。フラクタル幾何学を応用した手スリが黒川さんらしい。階段の幅は4mはあるのではないだろうか。贅沢な空間の使い方だ。

「展示室の特徴は,25.6mx38.4mの無柱空間である.作品の大型化,レイアウトの自由性への要望から,3.9mグリッドのレールに53本の可動展示パネルを吊り,展示テーマの変化に対応できるものとしている.」

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階段を上り切って、振り返ったところ

「また,パブロ・ピカソの作品をはじめ,版画の収蔵品数と質の高さは国内でももっとも高いレベルにあり,それらの作品の性質上,紫外線による劣化を防ぐため,自然採光は取り入れない計画としている.」

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2階レベルより、展示ホール上部を見る

建物に圧倒され、ここでゆっくり休んでいこうかという気分にはならず、展示を見て博物館へ。