2018年8月1日、その日鶴岡市に新しくオープンした、「ショウナイホテル スイデンテラス」に行ってきました。
I visited SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE designed by Shigeru Ban Architect in Tsuruoka City, Yamagata Prefecture, Japan.
当日、たまたま同じ庄内の酒田にある東北公益文科大学に仕事で行っている時に、このホテルを企画・建設し、運営にあたられるヤマガタデザインから、プレオープンと見学会の案内のメールをいただき、急遽行ってみることにしたのです。
敷地は同市内のサイエンスパーク内にあります。隣接して、慶應義塾大学先端生命科学研究所や、それに関連したベンチャー企業の社屋・研究施設などがあるような立地です。(→鶴岡サイエンスパークに関する新聞記事)
鶴岡市といえば、最近、妹島和世設計の荘銀タクト鶴岡(←このブログの記事)が竣工したことが記憶に新しいところかと思います。
この「スイデンテラス」を設計したのは、建築家・坂茂です。フランスのポンピドゥーセンター・メス、ラ・セーヌ・ミュージカルなど、海外でも公共性の高い建築を手掛けています。
2014年には国際的な建築賞であるプリツカー賞を受賞、また2015年度には、同氏設計の大分県立美術館がJIA日本建築大賞を受賞するなど、国内外で目覚ましい活躍をされています。
そういえば、以前このブログで取り上げた韓国のゴルフクラブハウス(Haesley nine bridges golf club house)も坂茂の設計でした。
坂氏がホテルの設計を手がけるのは意外にもこれが初めてだとのこと。
どんな新しい建築が鶴岡に生まれたのか、期待しながら近づいていきました。

鶴岡の宿泊施設の客室数は以前より不足しており、大きな会議・イベントがあるとすぐに予約が取れなくなってしまうそうです。鶴岡を訪れるビジネス客や観光客のために、地域の恒常的な客室数不足を補うことがひとつの目的でしょうけれど、それを超えて、庄内の原風景を顕在化し、その魅力を再発見する場を創出しようとしているようです。





ヤマガタデザイン代表の山中大介さんはこのホテルのコンセプトを以下のように語られています。
自然体で過ごす交流と滞在の拠点
海・山・川・平野、
自然の恵みで満たされた山形庄内。
2014年に移住してから現在に至るまで、
日々、この地域の美しさに魅了され続けています。
SUIDEN TERRASSEは、
山形庄内を象徴するランドスケープの一つである”水田”から着想を得ており、
訪れる方々が、木造2階建の温もりある空間の中から原風景を臨み、
自然体で過ごすことをコンセプトとした宿泊滞在複合施設です。
山形庄内で暮らす私たちが、
実際に家族や友人、ゲストをお招きしたくなる。
山形庄内で暮らす私たちも、
普段は見過ごしがちな地域の魅力にワクワクする。
流れる時間の中で交流が育まれる。
そんな施設づくりを目指しています。
SUIDEN TERRASSEの存在が、
すべての人々の幸せに繋がることを願い、
皆様のご来場を、心よりお待ちしております。
YAMAGATA DESIGN
代表取締役 山中大介
(公式HPより)
会社設立からホテル建設までの物語は、こちらに詳しく載っています。→Business Insider Japan









受付の左奥にはライブラリー






同上 天井に、ガラス製の防煙垂れ壁のようなものが見える。
勾配天井で天井高の一番低いところが3mを超えない場合、天井に平行に垂れ壁を設置する形になるようなのだが、折板形状でもあるのでどうなのだろう。排煙の考え方を含め、建物全体をシンプルに見せるために、いろいろなところで目に見えない工夫をしているようだ。




「山形と庄内のオトナのお土産」をテーマに、施設内でお買い物ができるショップをご用意しています。米どころ山形から厳選した地酒とおつまみグルメ、地元のクラフト作家が丹精込めた雑貨/アクセサリーなど、オトナだからこそ楽しめる、山形と庄内の逸品を取り揃えています。(公式HPより)


ブリッジ(後述)をわたり、宿泊棟(Y棟)へ






同見返し



この部屋はソファベッドを使い、最大4名まで泊まることができ、宿泊料は一室3万円(おそらく朝食付き)とのこと。




天井には枕の上あたりにある小口径のダウンライト以外の設備はついていない。(一部、感知器類あり)
丸いテーブルの脚も紙管。このテーブルは、写真ではカウンターと一体化されているが、スライドして単体としても使える。







坂氏の他の作品と同じように、内外装には、木の色や生成りなど、彩度が低い自然の風合いの仕上げが用いられている。この建物では、そのことによって、空の青や稲の緑など、窓の外の周囲の自然の色彩がより映えるだろう。




「華美ではない、シンプルな美しさを追求した、木造ならではの温もりのあるお部屋です。GASSAN、HAGURO、YUDONO、出羽三山の名称を冠する3つの棟には全143部屋が配置され、寛ぎの広さを約束するダブル、ツイン、スイートタイプのお部屋と、団体利用を受け入れるグループタイプのお部屋の計4種類をご用意しています。窓からは庄内平野の原風景や中庭など、趣ある景色を臨むことができます。」(公式HPより)








「オトナもコドモ コドモもオトナ」をテーマに、 1,000冊規模のミニライブラリを設置しています。 自分を大きく見せることなく、 相手を小さく見ることなく。 この街に暮らす人、この街を訪れる人、 みんなが等身大に出会えることを願い、 オトナが自分の素に戻れるような本を セレクトしています。本は施設内であればどの場所でも 自由に閲覧いただけます。大切にお読みください。」(公式HPより)







地産地消にこだわった旬を味わう膳「庄内しぜん定食」を提供します。 お米や野菜、庄内浜の地魚など、素朴で美味しい食材の旬を大切に、 無添加・オーガニックにこだわってお届けします。 天気の良い日には月山一望のオープンテラスを開放。 庄内の地酒もお楽しみください。お席やお食事、パーティーのご予約も承っております。 ご宿泊者以外の方のご利用も可能です。(公式HPより)




共用棟の空調は、二つのコアの上部のルーバーと、窓際の床に設けられたグリルを使ってなされているようだ。


「運動してリカバリーするための温泉/フィットネスをご用意しています。温泉は地下1,200Mから汲み上げた天然温泉(泉質:ナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物温泉)を、源泉掛け流しで提供しており、フィットネスは、全身運動と持久系トレーニングを軸としたマシン機器を取り揃えています。 ※本施設は宿泊者とデイタイム会員のみ利用が可能です。」(公式HPより)
























坂さんは、VAN(ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)というボランティア組織をつくり、20年以上前から、世界のどこかで災害が起こると被災地を、建築家の立場から支援するという活動をされています。先日の西日本豪雨の際も、一時避難所の体育館に、紙管と布で間仕切りをつくられていました。(→新聞記事)
VAN/ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(ボランタリー建築家機構)は、坂茂が1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)後、神戸で建築面での被災地支援のためにたちあげたボランティア組織。英語表記はVoluntary Architects’ Network (VAN)。VANは仮設住宅や教会の仮設集会所の建設を行い、その後の坂の国内外の被災地支援でも活動している。2013年に特定非営利活動法人化。(Wikipedia「坂茂」より)
この写真の上部中央にも見えるが、宿泊棟のところどころに銅の平板のようなものが付いていた。機能があるのか質問したら、意匠的なアクセントということだった。





「建築の設計に当たって、今回最重要に考えたことは、初めて敷地を見に行った時の美しい水田の風景をいかに保ちながら、そこに建築を優しく挿入するか、ということです。 四季折々表情を変える水田風景に、いかに建築を調和させるかが重要でした。 構造的には、基礎部やコア部分以外木造とし、水田風景に馴染むよう考えました。」(設計者・坂茂のことば:公式HPより)

9月19日にはスパ&フィットネス棟も完成、利用できるようになり、グランドオープンするそうです。
その時には、私もまたここを訪れて、今度は実際に泊まって体験してみたいと思います。
全143室、シンプルなデザインでありながら、決して安っぽくはなく、空間の質も高い建物なので、出羽三山、庄内の食文化などを楽しむ遠方からの観光客の需要、近郊からの週末リゾート、そしてシングル1万円を切る価格設定からビジネスユースなど、さまざまな客層にアピールできそうです。
鶴岡には、冒頭でも述べた荘銀タクト鶴岡などの話題作ができていますが、このスイデンテラスも評判を呼びそうですね。
(荘銀タクト鶴岡では、8月26日(日)に、JIA 東北支部と大光電機の共催で、設計者の妹島和世氏の講演会・見学会・演奏会が開催されます。入場無料です。詳しくはこちら 。どなたでも申し込みになれます。 )
水田には地下水が張られるということもあり、修景だけではなく、特に今年のような猛暑では、この施設を取り巻く微気候を緩和する効果も期待できるでしょう。スイデンテラスは、庄内の風土も含め、よく考えられたコンセプトに基づく建築です。
季節によって、苗が植えられたばかりの水田に映える空、青々とした稲が風にたなびく様子、黄金色の稲穂の絨毯、雪景色の向こうにそびえる月山など、さまざまな光景を宿泊者は見ることができるのでしょう。それがリピーターを呼ぶひとつの仕掛けになるのかもしれません。
田んぼに包まれた施設の、四季の表情の変化をみることが私もいまから楽しみです。
施設概要 | |
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名 称 | SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE ショウナイホテル スイデンテラス |
所在地 | 〒997-0053 山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1 |
施設規模 | 共用棟 地上2階 宿泊棟3棟【GASSAN・HAGURO・YUDONO】地上2階 温泉棟 地上2階(2018年9月19日オープン予定) |
施設内容 | ・客室:全143室 (ダブルルーム85室/ツインルーム40室/メゾネットルーム9室/スイートルーム2室/グループルーム7室) ・レストラン/バー 営業時間6:30~24:00(館内80席/テラス席20席) ・ショップ 営業時間7:00~23:00 ・ライブラリ 営業時間7:00~23:00 ・ビジネスルーム(貸会議室)11室 利用時間8:00〜20:00 ・天然温泉スパ&フィットネス(※2018年9月19日オープン予定) ・駐車場 150台(無料)※館内禁煙(喫煙所1箇所のみ) |
館内設備 | ・ランドリールーム (G棟・H棟・Y棟1F/Y棟2F) ・製氷機 (G棟・H棟・Y棟1F) ・自動販売機 (G棟・H棟・Y棟1F) ・Wi-Fi (共用棟/全客室) ※天然温泉スパ&フィットネスはバリアフリー非対応 |
バリアフリー対応 | 対応客室あり・フロア間エレベーターあり・車椅子貸出可 |
ベビー用品 | ベッドガード(無料)・おねしょ用シート(500円)・ベビーベッド(1台 3,000円) |
入湯税 | 150円 |
受付時間 | チェックイン15:00~24:00 チェックアウト5:00~11:00 |
カード情報 | VISA・MASTER・JCB・AMEX・DINERS |
ペット | 不可 |
(案内図と施設概要は公式HPより転載)
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