2017年9月23日、荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)の内覧会(市民見学会)に行ってきました。

メインホールの客席数が1120。人口約13万人の地方都市としては標準的な大きさかもしれませんが、それでもかなり大きな規模のホールです。(ちなみに、以前取り上げた長岡リリックホールが約1300、一昨年山形県南陽市にできた南陽市文化会館が1403、東京赤坂のサントリーホールが2006)

山形市から月山を越えて、車で1時間半程度。鶴岡市については以前、西田川郡役所の回で詳しく紹介しました。

平成の大合併で市域の面積は東北最大となりましたが、庄内藩の城下町が旧鶴岡市の中心市街地で、「荘銀タクト鶴岡」も城址に作られた鶴岡公園のすぐそばにあります。現在の市域内には県内唯一の建造物としての国宝「羽黒山五重塔」があり、それ以外にも重要文化財の建築が市内に点在しています。近年では、世界中のクラゲを集めて人気になった加茂水族館「クラゲドリーム館」や、慶應義塾大学先端生命科学研究所とそこから派生した「サイエンスパーク(整備中)」(→関連記事)が話題となり、観光文化都市、学術文化都市、創造文化都市などを標榜してまちづくりを進めています。日本唯一の「ユネスコ食文化創造都市」でもあります。今年「サムライゆかりのシルク」のまちとして日本遺産にも認定されました。

当日配られたリーフレットより

荘銀タクト鶴岡は、妹島和世建築設計事務所による設計です。今回はSANAA(妹島さんと西澤立衛さんのユニット)ではなく、妹島事務所(+地元設計事務所のJV)のクレジットとなっています。(説明会には西澤さんも参加したりしていたようですが)

SANAAは、2010年にプリツカー賞を受賞するなど、国際的に活躍する建築家です。石川県で手掛けた「金沢21世紀美術館」、フランスの「ルーブル・ランス」などが代表作です。

平成24年6月に行われた公募型プロポーザルによって設計者が選定されました。

プロポーザル時の提案書

「外部に対して閉鎖的で、大きなボリュームになるメインホールの四周を市民のいろいろな活動を内包するフレキシブルな回廊空間(平屋)で囲むという平面計画がユニークであり、ホールの新しい姿を予感させる。(中略)これからの文化創造拠点にふさわしい創造力を喚起させるチャレンジングで魅力的な提案であることが決め手となり、特定者に選定された。」(審査講評より)

以下鶴岡市HPより

「市では、新たな鶴岡市文化会館の開館を目指して、平成24年3月に「鶴岡市文化会館整備基本計画」を策定、平成25年11月に「実施設計」を完了し、平成26年10月に株式会社竹中工務店東北支店を代表者とする竹中工務店・菅原建設・鈴木工務店特定建設工事共同企業体と、平成29年8月31日までを工期とする文化会館改築工事契約を締結しました。なお、文化会館改築整備事業における、これまでの経過、工事費増額の要因、今後の財政負担の見込み、新文化会館の概要などについては、下記の広報「つるおか」掲載記事をご覧ください。」

東日本大震災や2020東京オリンピックなどの影響による建設物価の高騰のあおりも受け、建築工事の受注者がなかなか決まらず、予定価格を引き上げ、4回目の入札で施工者が決まったという経緯があります。(毎日新聞の関連記事

また、竣工間際になって、地元紙等で、外壁・屋根の質感について疑問の声があげられたりと、何かと話題が多く注目されてきた建物です。

外装の件に対しては、鶴岡市は以下のように回答しています。

文化会館外壁・屋根について

上のリンクでも引用されていましたが(ビルバオ・グッゲンハイム美術館)、SANAAの今までの建物より、外観の印象はフランク・O・ゲーリーの作品に似ているような感じもします。

見学会は大変な盛況で、さまざまな意見がある中で、市民の関心が非常に高いことが窺えました。

外観は今まで何度も見てきましたが、私も中に入るのは初めてで、興味深く見学させていただきました。

隣接する致道館(庄内藩藩校)よりの外観。手前の芝生などは致道館の庭。

周囲は、中心市街地でありながら、隣接する「庄内藩校致道館」だけでなく、ともに重要文化財の擬洋風建築である「旧西田川郡役所」、「旧鶴岡警察署」などが建ち並んでいる、城下町鶴岡の歴史的な街区でもあります。

同上
同上
周囲の山並みと呼応する形態を意図している(会議室で上映されていた、建築JVのスライド上映(以下スライドと略)より)
右に見えるのが致道館の玄関

市民の中には、江戸時代の建物である致道館に配慮して和風の意匠や、擬洋風のようなモダン建築がよかったのではという意見もあるようです。(擬洋風建築については「旧済生館本館」の回で少し詳しく取り上げています。)建築家の感性で描かれた恣意的な形状と、色彩のないモノトーンの素材選択によって構成された現代建築が、果たして伝統的な建築や街並みとよく対話(調和)しているのかというのは、おそらくプロポーザルの段階からあった議論だろうし、いまだにさまざまな評価があるでしょう。私はこういう現代的で刺激的な建築が、鶴岡のような伝統的な建築の多く残る街並みの中につくられることは、(もちろんその内容次第ですが)中心市街地の活性化のためにプラスの効果があるのではないかと思います。それは以前、ザハ・ハディドの「東大門デザインプラザ」を取り上げたときにも書きました。

正面入口(市役所側)

建物自体は引き渡しが終わったようですが、外構工事は進行中です。

施設は、致道館の敷地内にあるかのように、伝統的な意匠の塀に囲われる。
建築および構造概要(スライドより)

構造的には、メインホール(客席と舞台)の納められた中央にあるヴォリュームがRC(鉄筋コンクリート)造のコアとしてあって、その周りの空間を覆うようにS(鉄骨)造の3次曲面の屋根が、架けられているという構成のようだ。地震時の水平力はRC部に負担させることで、S部は柱・梁を極力細くして、筋かいや耐震壁も極力なくそうとしているのだろう。一種のハイブリッド構造か。

正面入口へと近づく。構造材をあえて顕した軒の意匠。雨の落ちる位置には砂利敷の側溝。
実質工期29か月でつくられた(スライドより)
この館名サインの壁の裏が入口となっている

荘銀は「荘内銀行」の略。山形県内唯一の「国立銀行」を前身(第六十七国立銀行)とする地方銀行であり、地元最大手企業。旧庄内藩主の酒井家から初代頭取が出ている。市が公募した、ネーミングライツ・パートナーとして、唯一手を挙げた。詳細の経緯は以下の通り。(山形新聞2017年8月30日記事

建物に入る。右手には致道館が見える
入口横のホワイエ的な空間
右側のコンクリートの壁の奥にはホール本体(舞台と客席)が内蔵されている
市役所側エントランスから反時計回りにホワイエを歩いていく
平面図

プロポーザル時とはホールの向きや小ホールの位置など、部屋の配置や向きは大きく変わっているようですが、庄内地方に多く見られる鞘堂形式(地域の風土が生んだ建築形式としての)を発展させたというプランは継承されています。

通常、劇場の平面は、表(観客のための空間)と裏(演者のための空間)が、それぞれの部屋を結ぶ動線も含めてはっきり分かれているものだが、ここでは、その区分けが非常にあいまいで、ホワイエを歩いていくと、同じ質感の空間の延長上に、搬出入室や楽屋が現れる。そこは決して単に機能的で、自然光が入らないような陰鬱な空間ではなく、周囲の自然や街並みも見渡せるような明るい場所になっている。いわゆる「裏っぽい」場所がほとんどない。

外観も印象的ですが、この平面構成が、今までの劇場にはない画期的なものなのではないかと思われます。

以前取り上げた、妹島氏の師である伊東豊雄氏の「長岡リリックホール」はホワイエ部分が自由に通り抜けできるようになっている点では似ていますが、そこでは、楽屋や荷捌き室、練習室などは表の空間からは完全に分離されていたと思います。ここまで斬新な劇場の平面計画はいままでなかったのではないでしょうか。

プロの興行では何らかの工夫が必要でしょうが、市民が観客でもあり、演者でもあるような、市民団体による演奏、演劇などの場合には、上演時以外の時間も含めて、従来に見られなかった親密な空気が館全体を包み込むことが期待されます。

一方、人気アーティストとか、歌舞伎、宝塚歌劇などの公演では、楽屋口(裏口)でファン(追っかけ)が待ち構えていて(出待ち・入り待ち)、混乱を避けるために警備員が誘導したりするという光景がよく見られます。楽屋の近くに通用口のないこの施設では、そのような出演者の出入りはどこから行われるのか、またセキュリティ面がどうなるのだろうか?練習室近くに出入り口があるようですが、市役所側の正面玄関に結構近いですよね。かといって、楽器や機材と一緒に搬出入室から入ってもらうことはありえないでしょう。

いままでの劇場建築が裏と表を明確にわけてきた大きな理由のひとつもその辺にあるのかもしれないし、中規模の地方都市だからこそ実現できた建築といえるのかもしれません。垣根を取り払った分、空間利用の多様性が増し、新しい可能性が生まれてくることは間違いないと思うので、運用面でも柔軟な発想をして、新しい工夫やルールづくりをすることで乗り越えていってほしいと思います。

有料ゾーンと無料ゾーンの区画は波状にして強度を出した、目の細かい金網によってなされている。
ホワイエの天井はどこもほぼ、このような仕上げになっている。(地場産杉材ルーバー)

この杉材ルーバーの天井、どこかで見たことがあると思ったら、隈研吾氏の十和田市 市民交流プラザ「トワーレ」だった。この「荘銀タクト鶴岡」では曲面を描く天井の形状に追従できるように板の向きや使い方は異なるが、下地のデッキプレートや設備配管を暗い色で塗装したりせず、細かいことをあまり気に留めていないようなのは共通している。コスト的な制約などもあるのだろうが、思い切った、ある意味潔い表現。(それは軒先のディテールなどを含めて随所に見られる。)従来格調高さが求められてきた市民ホールのロビーに用いるのは勇気がいると思うが、市民に開かれたホールというコンセプトにはあっているのかもしれない。

ホワイエは致道館の本館を囲むように配置されている。

「金沢21世紀美術館」のように、視覚的に内外が連続した空間によって、まちに新しい人の流れをつくりだすことができるでしょうか。

同上

「硬化剤を用いた磨き処理」を施したコンクリートの床が、ホールを取り巻くホワイエ全体に採用されている。

日本の公共建築ではあまり見られない床仕上げだが、安藤事務所で「スリランカの住宅」を担当していた時に一部の部屋に採用した「CUT CONCRETE」と呼ばれている工法に似ている。ローカル・アーキテクトから建物を案内してもらった時によく目にした、現地ではありふれた床仕上げだ。住宅などではその上を裸足で歩く。だがここではそれよりもさらに、光沢を放つまでに磨き上げられ、シームレスな鏡面のように風景や回廊を行き来する人々の姿を映し出している。目地はそれほど多く取られていないが、硬化剤で収縮クラックを抑止できているのだろうか。また、プレキャストコンクリートの床などでは、雨や雪が靴に付着していると滑る場合があるが、今回はどうだろうか。特に出入り口付近。

ホールへの東の入り口
同上
東2入口にあるホールの客席案内図
さらに一つ上の東3入口。若干狭いように感じられたが。
おりて、アートフォーラム側出入り口へ進んでいく

市役所側の玄関からは、アートフォーラム側の玄関まで、通り抜けできるようになっています。

アートフォーラム側出入り口からの見返し

床面の、窓際と壁際にスリットがあるが、空調に使われているのだろう。シンプルに見せるために数多くの見えない工夫が窺われる。

リーフレットより
小ホール前ホワイエ

照明は天井の木製ルーバーの間に仕込まれている。夜、照明の入った状態も一度見てみたい。長寿命のLED照明だろうが、吹抜け部の玉替えは移動式の電動リフトのようなもので行うのだろうか。

RC(鉄筋コンクリート)部の壁仕上げは「コンクリート打放し」とされているが、Pコン跡(型枠脱型後に壁表面に残る丸い穴(くぼみ))は同面(どうづら)にモルタルで埋められ、全体に均質にしごいてぼかされているように見える。私の知っている打放しとは表情がだいぶ異なる。床と違い光沢はないが、質感は似ている。
小ホール。247㎡。スタッキングチェアで約200席。
同上
右手に見えるのが小ホールの入り口

裏と表を仕切る背の高い扉、運営開始後、通常は開放されているのだろうか? 商業的な興行の場合は完全に閉じるのかもしれない。

ここから先が、従来の劇場と劇場と画期的に違うところ。ホワイエの延長のつもりでそのまま進んでいくと、搬出入口や楽屋が現れます。

搬出入室と小ホールのすき間
楽屋への案内ブース
搬出入室
搬出入室を背にして回廊を見る。左側の大きな扉が「舞台」への、右側奥の扉が「楽屋6」の出入り口。ここから先を進んでいくと回廊はアーティストラウンジになる。
楽屋6。楽屋内は、天井もデッキプレート露出で、回廊よりもさらに質素で割り切ったデザイン。ルーバー付きのところもそうだが、断熱はデッキプレートと金属葺屋根の間のどの位置で取られているのだろう?
シャワー室付きの楽屋
楽屋内部、LED直管型照明が埋め込まれている
エントランスから回廊、楽屋、そして舞台にいたるまで、一切の段差なく、スムーズに移動できる。「一階に全てのプログラムを配置し、だれでも利用しやすい施設を計画します。」という基本方針はプロポーザルからブレずに一貫している。あたりまえのように歩いていたが、これも意外に難しく前例は少ないのかもしれない。
楽屋側から舞台に入る
スライドより
舞台
舞台上フライタワーのスノコ天井は、地上付近で地組され、油圧ジャッキでリフトアップされた。(スライドより)
舞台袖の客席から見えない位置にある、(おそらく)音響・映像・舞台装置などの操作盤
舞台よりホールを見る(手前の赤い台が、オーケストラの指揮者の位置)

外観同様に、ホール内部も、同じ形の繰り返しの少ない、非対称な空間です。ここからどのような音響効果が生まれるのでしょうか?試奏(演奏家を呼んで音響効果のチェックをすること)はまだしていないそうです。

同上
同上

劇場のシートには鮮やかな色が使われることも多いが、今回は光沢を帯びたベージュ色である。人がいない状態では少しメリハリがない感じもするが、満席になればシートの色はそれほど関係なくなるだろう。この建物では、可動家具以外は、彩度の高い仕上げ材は用いられておらず、全体としての統一感はある。床や壁の木質系の仕上げと相まって、暖かく、落ち着いた雰囲気となっている。

二階席
不均等な幅でしかも、出入りのリズムもランダムな、ワインヤード(後述)を囲う壁。以前、ホールの設計をした時、音響設計の方からこのような内装が柔らかい音を生む(規則的なリブでは音が硬くなる)と教えてもらったことがある。
館内に展示されていたホールの検討用模型。記号的な意味ではなく、赤いシートの案も挙がっていたのだろうか?

ベルリン・フィルハーモニー・ホールで採用されたヴィニヤード(ワインヤード=ワイン畑)型のホールだが、舞台の後ろに客席があるタイプではない。日本ではサントリーホールがヴィニヤード型の代表例。

プロポーザルの提案書ではホールの形状はシューボックス型のようでしたが、選定後の検討でよりコンセプトを徹底していく中で、ヴィニヤード型になったのでしょうか。審査講評では、「ホールそのものについては、プレゼンテーションでも述べられたように今後の検討課題となる。四周を回廊空間で囲ったことでホールの平面形式はフレキシブルである。シューボックスや扇型など既に見慣れたホール形式に代わる、鶴岡ならではのかたちを市民とともに作り上げていって欲しい。」と設計の中での検討を促しているような記述が見られます。

ベルリン・フィルハーモニーは映画「もしも建築が話せたら」を取り上げたときに少し紹介しています。

多目的鑑賞室(クワイエットルーム)
多目的鑑賞室内。定員15人。(メインホールの人数に含めない)小さな子供を連れた人でも、泣き声などで他人に迷惑をかけることに遠慮せずに、演目を楽しめる。
花道より。花道は取り外し可能。手前の4列は電動で下に格納され、その場所は、オーケストラピットとしたり、舞台をせり出したりすることができる。
微妙に段差がつけられたホール壁面。案内係の方に尋ねると、これも、意匠というよりもむしろ音響効果のためだとのこと。
音響計画は定評のある永田音響設計。私もJEI ART CENTERで一緒にお仕事をさせていただいたことがあります。壁表面の段差と音の関係などもそのとき教えていただきました。コンピューターによるシミュレーションによる検証でホールの形状の骨格の確定・微調整に携わるだけでなく、よりよい音響効果を目指して、豊富な経験値できめ細やかな内装デザインのディテール監修を行われています。
舞台にも多くの見学者が
客席の最上部より舞台を見る
リーフレットより

シートには鶴岡市の「鶴」が描かれている。裏面も音響効果に配慮して布張りとなっている。
緞帳を下し始める
次第におりてきて
完全におりると照明が入る
この緞帳は美術家・千住博氏による『水神』を原画として、山形県山辺町にあるオリエンタルカーペットが制作したものである。

「舞台と客席を仕切り、日常と非日常の境をつくる緞帳は、ホールの顔ともいわれます。文化会館に設置する本緞帳の大きさは、縦9.5m、横20m。デザインは世界的に活躍する画家・千住博氏の絵画『水神』に決まりました。2015年にヴェネツィア・ビエンナーレで初公開された作品で、出羽三山の雪解け水など、月山の豊かな水資源を思い浮かばせるデザインとなっています。勢い良く流れる滝のように、様々な芸術文化が絶え間なく想像されるよう期待を込めて採用しました。」(広報つるおか平成29年3月号より)

オリエンタルカーペットの絨毯は、皇居新宮殿、京都迎賓館、新歌舞伎座などにも用いられている最高級のもので、その中でも最も高品質な緞通の技術が、この緞帳には用いられている。

この緞帳はオリエンタルカーペットが手がけたものの中で最大。工場には入りきらないので、旧山辺中学校の体育館を借りて制作された。
インタビューに答える、オリエンタルカーペットの渡辺博明社長
機械で自動的に織られるのではなく、『手刺』で丁寧につくられる
モノトーンに見えるが75色を使い分けている

「本緞帳制作は、プロポーザル方式で選定されたオリエンタルカーペット(株)が行います。染色や織りなど制作の全工程を、社内の職人が一貫して行っている同社。細密な表現力が持ち味で、皇居や歌舞伎座などの絨毯、館内では遊学館や川西町フレンドリープラザなどの緞帳を手掛けています。」(同上、広報つるおかより)

インタビューに答える千住氏 「原画を超えているというか」
同上 「私の手を離れてこの作品は皆さんの作品になっていると思いますし」
糸の30%には、この地でとれた「鶴岡シルク」が用いられている。

「本緞帳の素材の一部に用いる絹は、庄内地域で生産される「鶴岡シルク」です。その中には「繭人」が携わった絹も含まれます。繭人とは、市民が蚕の飼育体験をする取り組みで、鶴岡シルクタウン・プロジェクトの一環で始まりました。緞帳制作にあたり39人と9団体が繭人の取り組みに参加。松岡(株)の製紙工場で、繭を繭糸に加工する過程を見学・体験した繭人は「大切に育てた蚕が本緞帳の一部になると思うとうれしい」「完成が楽しみです」と話していました。」(同上、広報つるおかより)

 

鶴岡市は「サムライゆかりのシルク」で今年、日本遺産に認定された街です。

「日本の近代化を産業面からけん引した絹産業。旧庄内藩士が刀を鍬に持ち替えたことが、鶴岡市を中心とする庄内地域が国内最北限の絹産地となったきっかけでした。この地域は国内の絹産業が時代と共に衰退する中で、百数十年を経た今もなお養蚕から絹織物の製品化まで一貫した行程が残る国内唯一の地です。」(日本遺産認定時の「ストーリー」)

開演前は緞帳を見ているだけで飽きない。思わず見入ってしまう。
緞帳に近づくとこんな感じ
舞台からまた、楽屋側に戻る。楽屋前のホワイエ的空間はアーティスト・ラウンジになっている。
開演前後に演者が寛げる「アーティスト・ラウンジ」左側が楽屋群。
同上
一番大きな楽屋の前。奥にはホール客席より一時的に外された可動(半固定)椅子。
内外を貫く鉄骨梁ディテール。岩綿吹付のようなものは結露防止?
会議室前。ホールへの西1出入口 手前が有料ゾーン、奥が無料ゾーンだが、それらを仕切る波型の金網は(特に日中、内側から外側を見ると)存在感が希薄で、空間としては一体的に感じられる。
同上
西1出入口
西2、3出入口への階段
同上

2階、3階の客席への人の出入りが、この階段の幅で十分なのか、少々心配です。特に休憩、終演後の退出時など一斉に観客が出てきた場合。

託児室。子供用の椅子は、SANAA(妹島氏?)によるデザインだが、通常のものより小さくかわいらしい。
事務室もシースルー
館内唯一のエレベーター
3階までエレベータでのぼる
近隣に配慮してか、濃度の変わるすりガラスフィルムが貼られている
正面から上階にのぼる階段
一周して市役所側玄関に戻ってきた
市役所側玄関からホール側を見る
練習室前ホワイエでは検討用模型の展覧会が行われていた
ケント紙のようなものでつくられた数多くの模型。小さいものはおそらくプロポーザル前につくられたものではないだろうか
ほぼ最終的な形状に近づく
基本設計の確定案の模型か?

テーブルの上に並べられた、さまざまなスケールの数多くの模型からは、設計者の情熱と、新しい建築を生み出すための弛まぬ努力がにじみ出ています。

練習室は扉が二重になっている。有孔ボード(+たぶんグラスウール充填)とカーテンで、遮音された室内での反響を調整している。

チケット売り場がないようだったので、「当日券はどこで売るのですか?」と館の方に尋ねたら「まだ決まっていません」とのお答えでした。ホワイエの一部にテーブル等を設置するのでしょうか?

軒のディテール

庄内地方では、県内陸部と異なり、雪は降っても下から吹き上げるような地吹雪が多く、風で雪が吹き飛ばされるため、屋根に雪が積もることは多くはないと聞いたことがあります。それであれば雪止めをつけたり、雪庇の心配をしたりする必要はないということなのかもしれません。冬場に屋根に積もる雪や軒先にできる氷柱(つらら)がどうなるか、もちろん協議は十分になされているはずだと思います。

アートホール側出入り口
屋根と外壁の表情

上の屋根には雪止めがついているようですね。また、手前の急勾配の屋根の上部の押さえの部分には、メンテナンス用のアイボルト(吊環)のようなものがついている。

同上

冒頭述べたようにこの外装材の皺について、一部から疑問の声が上がったという。監理者が施工精度をどこまで厳しく求めるかは別として、3次曲面の金属葺屋根の皺は、ある程度は仕方のないもの。屋根の上部の押さえの部分や平面の外壁等については、アルミ等の切り板を適当なピッチでつなぎ合わせていけば、皺がない意匠にもできたのかもしれないが、設計者は外装はなるべく同一の素材で仕上げたかったのかもしれない。また、雪や凍害(すが漏れ)、雨仕舞(止水=漏水防止)等の問題もあるので、簡単には言うことはできない。

アートフォーラム側玄関前 鉄骨柱はコンクリートの床面までおりている。雪国ではこういうディテールの柱の足元が錆びていることが時々見うけられる。メッキ下地などして防錆に配慮しているのだろうが、定期的な塗装の塗り替え等メンテナンスは、建物を長持ちさせるためにも不可欠だろう。
少しずつ引いていく

舞台上部の外壁は少しくすみ始めている。数年経てば、全体にもう少し光沢(ギラつき)が減り、より落ち着いた雰囲気になるのだろうか。

鶴岡アートフォーラム前からの外観

見学会には、子供からお年寄りまで多くの人々が訪れていました。予想以上の盛況でした。

賛否両論あるようですが、見学する市民たちからは「わあ、すごい」「いいね」という驚きと歓声が多く聞かれ、よく受け入れられていたように思います。

こけら落としは来年3月18日、N響に決定

山形県の庄内地方には、いままでにも酒田市に土門拳記念館、酒田市美術館などの優れた現代建築がありましたが、このたび鶴岡市に非常に話題性のある建築が誕生しました。

事業費高騰の問題や伝統的な街並みとの調和に関してはさまざまな意見があって当然と思います。私は一見学者として訪れたのみで、あくまでも表面的な観察をすることしかできませんでしたが、設計も施工もたいへん難易度の高い建築であることは間違いなく、人口15万に満たない地方都市でこのレベルの建築をつくりあげることができたことは、それだけでまず評価されてよいのではないでしょうか。施主、設計者、施工者が力を合わせなければこのような建築は実現できません。さまざまな苦労があったことでしょう。その尽力には敬意を表します。

妹島和世設計によるホール、そして千住博原画による緞帳は、鶴岡市民の宝になりうると思います。この施設をうまく育てていけるかは、行政だけでなく市民一人ひとりにかかっています。

何も演目がないのに、ただ建物を見るためだけに、これだけ大勢の人が詰めかけているのを目にして、滑り出しは良好なのではという気がしました。

市民から日々活用され、末永く愛されるようなホールになることを祈っています。

(本文内の建物写真以外の図版・映像は、全て当日会場内で上映・展示・配布されていたものです。)