9月23日は、ニューヨークの美術館を中心に駆け足で回りました。

まず、新館がオープンして閉鎖中の、マルセル・ブロイヤー(Marcel Breuer(1902-1981))設計の、旧ホイットニー美術館から。

外観だけでも見ようということで、立ち寄りました。竣工は1966年。延べ面積82,000平方フィート。

マルセル・ブロイヤーは、バウハウスで、近代建築の四大巨匠の一人、ワルター・グロピウスのもとで学んだユダヤ人の建築家で、ナチスの台頭によりイギリスに移った後、アメリカに移住して活躍、1950年代以降、ブルータリズムの先駆者として名を馳せました。

マルセル・ブロイヤー(Wikipedia)

ブルータリズム(Wikipedia)

この建物は荒々しいコンクリート打ち放しではありませんが、ブルータリズム(野獣主義)の建築家ブロイヤーらしい、彫塑的な表現が見られます。

「ホイットニー美術館設計に関する建築家のアプローチ  マルセル・ブロイヤー (以下、鍵カッコ内引用です。)」

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下に行くにしたがって徐々にセットバックしていく、当時としては相当刺激的なヴォリューム設定。

「このプロジェクトの設計にあたって作業と設計条件を設定した後、我々は最初の、そして最も重要な課題に直面した。マンハッタンの博物館とはいかなるものであるべきか。もちろんその機能を果たし、要件を満たすものでなければならない。しかしそのニューヨークの景観との関係は何か。何を表現するのか。その建築上のメッセージは何か、である。」

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現在、閉館中のため、人気(ひとけ)はないが、その存在感、迫力は健在である。

「まずそれがいかなるものであってはならないかをいうことの方がたやすい。それはオフィス・ビルのように見えても、手軽な娯楽施設のようであってもならない。その形態と材質は、我々のカラフルな都市のダイナミック・ジャングルのただ中にある50階建ての高層ビルと長さ1マイルの橋という近隣地区において、アイデンティティーと重さをもっていなければならない。またこれは独立したユニットでなければならず、同時に街路に対して視覚的関連性をもっていなければならない。さらに街路の活力を芸術の誠実さと深遠さに変換しなければならないのである。」

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コートヤードのスケッチ

「プロジェクトのスケッチが示すように、玄関ブリッジを渡した歩道と建物の間に、彫刻沈床園がある。またロビーのガラス壁はマジソン・アベニューに面し、彫刻ギャラリーは街路や通行人に接している。建物のマッスの逆ピラミッドがこの博物館やその特別な貢献に対する注意を喚起する一方で、このマッスは最も耐久性のある目立たず落ち着いた素材で表面を覆われている。」

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御影石張りの外観。

「周囲を穏やかに映し出すやや濃いウォーム・グレイのみかげ石である。彫刻の庭の上に高く伸びる建物は日中の光をさえぎらず、訪問者は実際に建物の内部に入る以前に受け入れられる。沈床園とその彫刻は、歩道や玄関ブリッジから見ることができ、またガラス壁を通してロビーや彫刻ギャラリーを見ることができるからである。」

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隣接建物との間は、御影石ではなく、本実型枠のコンクリート打ち放しになっている。

「建築的フォルムの完成度を強調するため、両街路側のみかげ石のファサードは近接の建築面から離されている。これは何かの一部と見られ易いという角ビル特有の問題点を解決しようとする試みである。このプロジェクトは建物を単一のユニット、要素あるいは核に変換し、マジソン・アベニュー向きの方位を与えている。」

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ブロイヤーの文中で「沈床園」と訳されているドライエリア。彫刻は移設されたのか、もはやここにはない。上のスケッチと異なり、ブリッジには街に突き出した庇がつけられている。雨よけと、入り口の明示、より積極的に人々を誘い込むための仕掛け。

「全体に及ぶ御影石はマジソン・アベニューにまで伸び、表面に開口部のある沈床園に達している。また隣接ビルとの間のマジソン・アベニューというギャップが調子を変えてはいるが、歩道に沿ってみかげ石のパラペットやブリッジの構造体コンクリートのフォルムなどと相まって、全てがこの建築自体を一つの彫刻に形づくろうとする試みになっている。しかし、これはやや重要な機能上の要件を備えた彫刻である。」

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「我々の目的は来訪者の注意を展示物に集中させるようなシンプルなインテリア・デザインを作り上げることであった。またスペースのフレキシビリティも必要であった。これらの要件に対する解決案は、柱や梁のない方形の広々としたギャラリー・スペースであり、これを容易に交換可能な床から天井までのパネルで仕切る。天井の格子は、照明のフレキシブルな使用を含めて、交換可能性を高めている。壁はすべて白、コンクリート天井は明るいグレー、スプリットスレート床は同系の濃いグレーである。」

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日光が反対側の建物に反射して、御影石に当たっている。これが、この建物が外部に対して積極的に開口部を設けず、閉ざされた印象をもっている一つの要因かもしれない。

「必要な床面積は敷地の6~7倍である。日光が反対側の高層アパートに反射してその赤と黄色のレンガの色に染まってしまうという事実とは別に、面積上トップライトの展示スペースは不可能となった。窓や外装ガラス部分は邪魔になり、展示スペースを減らしてしまうことになる。結果的に、我々の建物は窓を全く必要としない。自動制御の換気、冷暖房、調整可能な照明を備えている。」

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一階のロビー(改装工事が進んでいる模様。内部の雰囲気だけでも見ようと、横から何とか覗き込んでみた。)

「我々は、博物館の建物の中で照明がおそらく単一の構成要素としては最も重要なものであることを認識しており、ここでの解決策は課題の真剣な探求の結果である。最終的な取り付け工事に先だって、実物大の模型で試験・実証された。」

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建物から突き出した、彫刻的な窓

「この建物では窓が存在理由を失っているため、残された窓は非常に少なく、外部との接触箇所を設けるためだけのものである。これら少数の窓は換気や照明という厳しい要件から解放されているため、メイン・ビルの輪郭の強さとの純粋に彫刻的コントラストとして、形態や位置の制約が少ない。」

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歩道から玄関まわりを見る。歩道も、建物と同じ床石で仕上げられている。

「おそらく、交換可能な間仕切りのある広大なオープン・ギャラリーには、特別な理解と注意が必要であり、それなしに全体の印象があまりに合成的なものとなってしまうように思われる。これらのスペースに対する我々のダイレクトな感応性を確立するため、ギャラリーには素朴で土に近い素材を示唆した、きめの粗いコンクリート天井とスプリット・スレート床である。(原文ママ)」

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来年の3月に「THE MET Breuer」(メトロポリタン美術館の分館?)としてリニューアル・オープンの予定。
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引用は同朋舎出版の世界建築設計図集36より