この日(9月20日)の宿泊は、F.L.ライトが設計した、Duncan House 正式名称 Donald C.Duncan house です。

場所はPolymath Park,Westmoreland County,southwestern Pennsylvania,

落水荘から車で一時間弱位だったでしょうか?

一軒家を借りて泊まるということはわかっていたのですが、ライトの設計ということは聞いていなかったので、うれしいサプライズでした。

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全景

車寄せを含めるとL字型プランになっている。石貼に見えるところと車寄せは陸屋根。それ以外は切妻屋根。

こちら側からは平屋に見えますが、実際は地上1階地下1階の2階建てです。

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玄関まわり

外壁は、石張りの部分と、木(ベニヤ板?)に塗装の部分がある。木の部分は建具と同じチェロキーレッドのリブをつけて、アクセントをつけている。

 

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リビングルーム

玄関から階段2段分下げている。そのことで、天井高が高くなり、また、玄関・廊下との領域分けが緩やかになされて、全体の床面積を抑えながら、家族が集まるリビングを広々とみせることに成功している。階段の蹴込部分に空調吹出口がある。

Duncan House

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キッチン

天板はメラミン(またはポリ)化粧合板のようだ。赤が効いている。

工業化製品を使いながら、シンプルで使いやすく、清潔感のあるキッチンを実現している。

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キッチン横のダイニング

プレイリー・ハウスなどの初期の作品を写真集などで見慣れてきたので、えらくあっさりしたディテールだなと思いましたが、リビングなどの空間の質は悪くないと感じました。

部屋に置いたあったライト作品集で調べると、リトアニア系アメリカ人の建設会社社長、Marshall Erdman に頼まれて設計したプレハブ住宅の一つでした。それで合点がいきました。

Marshall Erdman Prefab House

1929年の世界大恐慌の影響を受け、多くのプロジェクトは突然中止され、建設界も大きな痛手を受けた。そんな中、ライトは「手ごろな価格の住宅は、アメリカの大きな建築課題であるばかりでなく、この国の大半の建築家にとって最も困難な課題である。私は、自分が思い描きうる何かを建てることよりも、その課題を私自身のユーソニア(アメリカ)が満足するものとして解いてみたい……。」と語り、1932年に一連のユーソニアン・ハウスの出発点ともいえる、マルコム・ウイリー邸の第一案を生み出しました。実際に建てられた、1936年のユーソニアン・ハウスの最初のものは、ハーバート・ジェイコブス邸です。

それ以前のプレイリー・ハウスは、敷地、材料、平面構成に多彩なバリエーションを許容するのに比して、ユーソニアン・ハウスは同じように多くのバリエーションを可能としながらも、どの家にも共通する「ビルディング・システム」によって建てられるよう工夫されていました。その目的は言うまでもなく価格を下げることです。

このDuncan Houseは、1957年に建てられたものですが、一連のユーソニアン・ハウスのうちの一つに位置づけられています。

2002年に、南ペンシルベニアのPolymath Park に移築されました。同じ平面で建てられた住宅がほかにも何軒かあるようです。

落水荘の後で両極端ですが、面白い経験でした。

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こんなプランです。

キッチンまわりのみがコンクリートブロックのようなもの(またはRC)で固められているようです。一つにはキッチンで、コンロやオーブンがあること、反対側のリビングには暖炉があることで、木ではない耐火性能のある素材を使わなければならなかったという理由、もうひとつには、木部の構造を軽快にするために、このコアに水平力を担わせていること、車寄せの屋根の鉄骨梁を受けるために、しっかりした構造体が必要だったなどの、構造的な理由があるのでしょう。

また、満足度の高いローコストの住宅を実現するためには、限られた部分に石張り壁を使うという「一点豪華主義」ともいえる作戦をとる必要があったのかもしれません。

 

窓はシングルガラスで、ブラインド・カーテンの類はついていない。

夜は結構寒かったです。冬はどうしているのでしょうか。

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別の寝室(図面上ではSTUDYとなっている)

内装材も決して高級な素材を使っているわけではないが、外壁と同じピッチでリブをいれて(内部のリブのほうが小さい)さりげなくデザイン性を高めている。

 

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主寝室の水回り

器具を並べただけのシンプルなデザインだが、壁と床のタイルの目地を合わせたり、ところどころ絵入りのタイルをいれたり、器具の配置をタイルのモジュールに合わせたり、限られた予算のなかで、設計上の工夫一つでよくなるものを積み重ねようとしている。

左手、床に見えるのは空調の吹き出し口。

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地下にラウンジがあり、バーベキューのできるテラスがついている。(地階内部は非公開)

軒先は、木レンガのように見えるが、実際は、長さ2m位の木の板に化粧で溝掘りをしている。

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壁仕上げが、GL(地面レベル)で切り替わっている。地下部分はおそらくRC造(+石貼)で、地上部から木造になっているのだろう。

 

9月20日は、Beth Sholom Synagogueから始まり、Fallingwater、Duncan Houseと、ライトの作品を立て続けに見ることができました。

宗教施設、特注の高級住宅、ローコストの普及型住宅、それぞれに違う特徴をもっていましたが、F.L.ライトという建築家が、厳しい現実的要請の中で貫いた、その純粋な芸術的理想を成し遂げるための、執念、こだわり、しぶとさというものが、どの作品からも伝わってきたように思いました。

落水荘はもちろん素晴らしかったですが、ユーソニアン・ハウスとしてのDuncan Houseを体験できたことが、これから地方都市で住宅を設計する際には、むしろ参考になるのではと思いました。

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Frank Lloyd Wright(フランク・ロイド・ライト回顧展図録より)

Duncan Houseに一泊して、翌日はほぼ一日移動日です。ピッツバーグ空港から、ノース・カロライナのシャーロット・ダグラス空港で乗り換え、テキサス州のダラス・フォートワース空港に向かいます。(日本列島縦断くらいの移動距離です。やはりアメリカは広い!)