韓国の驪州(ヨジュ)にあるHaesley nine bridges golf club houseです。9月に見てきました。以前韓国のこのあたりで仕事をしていたので、今までにも訪れたことがありました。機能は、名前の通り、ゴルフ場のクラブハウスです。オーナー会社は、サムスン系の食品会社CJ(サムスン電子のイ・ゴンヒ会長の長兄が会長を務めている)と聞いています。

以前聞いた話では、韓国ではゴルフをする人たちが近年急激に増え、ゴルフ人口に対して、ゴルフ場の数が足りないという状態になっている、日本はもう飽和状態で、会員権なども安くなっていて、韓国では予約が取れないので日本にプレーしにやってくる人もいる、ということでした。

最近では、韓国でも落ち着いてきたのかもしれませんが、背景としては、日本と違い、これからどんどんゴルフ場をつくっていこうという気運の中でつくられた建物です。

設計は、日本人建築家の坂茂(1957~)。2014年にプリツカー賞を受賞しています。

(施設で配られていたパンフレットでは、韓国人建築家の名前が前に出ていましたが、実質は坂さんの仕事で間違いないと思います。)

坂さんは2003年にポンピドゥ・センター・メスのコンペに勝利、2010年に竣工しています。

竣工時期はこの建物もほぼ同じころのようです。

ポンピドゥ・センター・メスは、全体の材の流れについては同じような形式の木架構ですが、薄い板を重ねて、本当に編むようにして使っていますが、この建物では、編んでいるのではなく、角材が接点ごとに嵌合しながら柱から梁に連続的に変わっていくような形式になっています。

全体を見た印象は、まったく同じシステムを使ってそれを応用したのかと思いましたが、六角形を単位とする架構の考え方は共有しているものの、構造の考え方はだいぶ違うのではないかと思います。

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車寄せ マッシュルーム状の柱
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風除室
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エントランスホール

木材を籐細工で編むような(実際には完全に噛み合っているが)形で、柱と梁がその区別なくつながっていくような構造になっている。

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断面図。館内で配布されていたパンフレットより(以下、図面や工事写真は同様)
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エントランス・ホール。少し左側を見る。

この建物の中では、このエントランスホールが最大の見せ場です。ゴルフのクラブハウスという建物用途自体、非日常のエンターテイメントのための施設なので、そうなる傾向が強いのでしょう。

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断面詳細図(熱環境ダイヤグラム)
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エントランスホール天井見上げ(柱の位置にトップライトがある。天窓の横から空気の流通が確保できるようになっているようだ。)地形を生かして、一層分下りてゴルフ場にアプローチするようになっている。

木で大規模架構をつくること、そして、柱と梁の境目のないような構造というアイディアに関しては、以前から私もやってみたいと思っていたので、非常にうまく実現されているなと思いました。これを坂さんとともにつくりあげた、韓国の建設会社や実施設計者の力もなかなかのものですね。

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断面詳細図
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パンフレットに載っていた竣工当時の内観写真

この階段の向き、覚えておいてください。

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平面図
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現在の内観写真(白く塗ってある屋根は鉄骨と木のハイブリッドか?)

この前私が行ったら、階段の向きが竣工当初と違いました。(付け替えるため、結構大掛かりな工事をしているはず。)上の写真と見比べてみてください。

竣工後に、何かの事情で向きを変えたのですね。

確かにこの方が、ラウンジとして広々と使えますけれど。ちゃんと施工前に施主も納得して進めたのだろうと思います。

日本では竣工直後にこのような変更はあまりありません。

私は韓国で10年ほど、設計監理を経験しましたが、韓国ではこのようなことがあっても不思議ではないなという気がします。

たぶん竣工後に、オーナーが使いにくいとか、自分のイメージと違うといって、直させたのではないかと思います。

韓国では、オーナーの権限が強く、勢いをもってプロジェクトが進んでいきますが、その分、でき上がってからオーナーがちょっと違うから修正しようという話になる場合も結構あります。

そもそも、このような斬新なプロジェクトは、ステークホルダーへの配慮、事前説明が常に求められる今の日本社会では、なかなか難しく、もしかしたら韓国だから実現できたのかもしれません。

もちろん、韓国と日本では、建築基準法や構造基準、耐火性能の評価が異なりますので、そういった意味でも、韓国という環境で成立し得たプロジェクトなのかも、と思います。

階段の向きが変わっていることから、そんなところまで想像してしまいました。

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部分詳細図
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天井見上げ
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構造ダイヤグラム。一部鉄で補強しているようだ。
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柱足元まわり(ライトアップ用のLED照明がついている)
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エントランス周りのシャッター(全開できるのだろう) 似たようなシステムを銀座のスウォッチのビルでも坂氏が使っていました。
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レストラン入り口

天井やパーティションには、紙管が使われています。

坂さんは建築の構造として、日本で初めて(少なくとも実用的な建築としては)紙(紙管)を使った建築家です。

阪神・淡路大震災の時は、紙で仮設住宅や教会をつくられて話題になっていました。

スリランカの津波のあとも、復興住宅を現地で手掛けられています。

この建物では構造材としてではなく、仕上げ材として紙管が使われています。

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レストラン

天井の仕上げとして紙管を使う際には、日本なら面積や用途に応じた制限があるだろうが(防火・避難対策として)、韓国ではどうなのだろう。建築基準法のベースは同じだが、日本と違い韓国では「排煙」の規定がないなど、違っているところも結構ある。

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レストランの奥にあるラウンジ。
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レストランに置かれたショーケースにも紙管が使われている
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パーティションにも紙管
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バックヤード(トイレなど?)に通じる通路。
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レストランの窓は、すべて折れ戸でフルオープンにできる。
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レストラン部の外壁とテラス。

韓国のあるクライアントは、この石張りの外壁が、木を編んだような内部空間をもつ建物にあまりあっていないといっていました。

私は最初あまり気にならなかったのですが、言われ見ればそうかなあとも思いました。感覚的なものなのか、何か考えがあるのか。

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石張り壁の立面図
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レストラン横のスペース。平面図を見ると、浴室です。屋根あり外部になっているところにはジャグジーがあるようです。
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エントランスホールに戻る。韓国で近年つくられた中でも、結構重要な位置づけになる建築ではないでしょうか。
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車寄せにもどる

紙管、透明パネルシャッター、そして籐細工のような木架構など、今までに、坂さんが開発されてきた素材、デザイン言語やディテールを駆使してつくられた、魅力的な空間でした。

ゴルフ・クラブ・ハウスということで、見せ場の空間をつくる上でそれほどの縛りがなく、オーナーの権限が強い韓国だから、割と自由に表現できたということもあるかもしれません。

日本でもこのように、ただ木を消費すればいいというだけでなく、デザイン性が高い上に、システムもよく考えられていて、理に適った大規模木造が、これから数多くつくられていけばいいと思います。