フォートワース美術館の次に訪れたのが、キンベル美術館の新館「ピアノ・パビリオン」です。2013年にできたばかりです。

設計者は、イタリア・ジェノバ出身の世界的建築家、レンゾ・ピアノです。リチャード・ロジャースと共同で設計したパリのポンピドゥ・センター(1971-77)で一躍脚光を浴びました。日本での彼の作品としては、関西国際空港があります。

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写真奥に見えるのが、カーンの設計した美術館、右手の庇が見えるのが、ピアノの設計した新館。
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柱はコンクリート打ち放し(木目やパネル目地が見えないので、鋼製型枠を使っているようだ)、梁は木+鉄骨のハイブリッド、屋根はガラス+鉄。
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建物全体が、異なる素材を、適材適所にたくみに使い分けたハイブリッド構造の建築になっている。
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外回りを一周する。途中にあった、段状のドライエリア。
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地下空間に、光と新鮮空気を供給する、細長く深いドライエリア。
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全体が低層に抑えられていて、カーンのキンベル美術館を含めた周辺環境を圧迫しないような配慮がなされている。

「RPBW棟は高さ、規模、および全般配置の点において、カーンの建築と繊細に呼応しつつもより一層開放性に富み、透明な建築となった。建築は(面積の半分が地下に隠されているため)軽快かつ控えめに見える。他方、その独創性ゆえに新旧の対話を促している。」(「GA DOCUMENT 128」より)

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リズミカルな架構
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柱・梁と屋根架構が取り合う部分のディテール。

レンゾ・ピアノらしく、構造部材同士の接合部を、隠さずに見せても十分に美しいレベルまで洗練させている。構造、水仕舞などを合わせて考え抜いて、何度も検討を重ねないと、このような「そのまま見せる」ディテールは成り立たない。

ポンピドゥ・センターの頃は、「ハイテック・スタイル」などと言われていたが、鉄、ガラス、コンクリートといういわゆる工業製品だけではなく、木という自然に近い素材を組み合わせたうえで、それらが高い次元で融合されたディテールを追求することで、テクノロジーの視覚化を本領としてきたピアノなりに、21世紀の建築に対する答えを出そうとしているようにも見える。

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建物を一周して、エントランス前にもどってきました。

キンベル美術館では1970年代の美術館構想を遥かに越えて、収蔵されるプログラムとコレクションが近年、飛躍的な増加を続けている。美術館では展示機能と教育プログラムに使用する空間が大幅に不足していた。これらの問題を解決するために、新しいレンゾ・ピアノ棟では企画展示室、美術館教育部門の講義室とスタジオ、298席の大オーディトリアム、および図書館の増床と地下駐車場が用意されることになった。」(「GA DOCUMENT 128」より)

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エントランス・ホールはかなり広く、休憩や談話ができるラウンジの機能ももっています。右手の開口奥はアフリカ美術の展示室。
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天井は全面トップライトになっており、半透明の被膜を通してやわらかい光が空間を満たします。構造を補完するための鉄の部材が肌理をつくり、対になった2枚の梁の間にダウンライトが収められています。
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エントランスの風除室を振り返ってみたところ。突き当りに見えるのが、カーン設計の美術館。建物の中心軸を合わせ、正対させています。

「新しい建築棟ではガラス、コンクリート、および木材が、旧来の建築におけるこれらの素材と呼応する主要部材として用いられている。新しい建築を通して見える自然の風景と遠方のカーンの建築への眺望は、透明性や開放性といった建築の主題を強く表現したものである。」(「GA DOCUMENT 128」より)

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地上部は樹木の植えられた中庭で2分されていますが、その中央に設けられた歩廊をとおって、奥の空間にアプローチします。ピアノ・パビリオンも入館料は無料です。
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歩廊部はなにげなく通りすぎてしまったが、よくみると、検討に相当の労力を費やしているようだ。

門型の鉄骨フレームは構造部材であると同時に、ガラス嵌め殺し窓の方立も兼ねている。これは簡単なようで意外と難しい。両側面だけでなく、トップライトを受けている鉄骨梁も同様だが、上部ではさらに、水を落とす勾配をつけるために、鉄骨部材自体に、ゆるやかな「むくり」をつける加工を施している。

奥にはガラス張りのホールの上部空間がすでに見えますね。

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歩廊から、中庭を見る。屋根つきのテラス(休憩スペース)がある。
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強化ガラスの手すり。D.P.G.(Dot Pointed Glazing) ガラスに穴をあけるには強化ガラスを使わなければならない。強化ガラスにあけた「皿穴部」をとおして皿ボルトで支持する構法。

ガラスをあえてスラブ(床版)下まで伸ばしているのが特徴的である。手すりの天端(最上部の小口面)は特に金物で覆ったりしていないが、触れてもなめらかで違和感はない。

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天井面の照明はダウンライトではなく、スポットライトである。

単なる移動空間ならダウンライトで十分のはずだが、スポットライトにしたのは、展示空間として活用しようとしたのか、それとも、意匠上の統一感のためだろうか。

東側の棟が、軽快なガラス屋根(ファブリックの光天井)から自然光が降り注いでくるのとは対照的に、中庭を挟んだ西側の棟は、上部は屋上植栽をのせた陸屋根となっており、最上階ではあるが、上部からではなく側面からの採光を採用している。

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上の写真の突き当りに見える休憩スペース。段状のドライエリアを介して、通りと接している。
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中庭を見ながら折り返し、階段で地下へ。
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地下に下りる階段。向かって左側のコンクリート打ち放しの壁は傾いている。

この部分の壁は、エントランス棟と違い、Pコン跡(コンクリート表面の小さい丸い穴)がある。

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階段を下り切って、右に曲がると(講堂用?)受付カウンター。
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左に曲がると、手前と奥の面がガラス張りの講堂(ホール)が現れる。

階段を下り切って曲がると、すぐにガラス越しにこのようにホールの全体が見えます。

ステージの後ろもガラス張りで、ドライエリアに差し込んでくる太陽の光を、地下空間に取り込んでいます。この背後に見える打ち放しの空間は、最初に外回りを一周した時に見た、細長くて深いドライエリアです。

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部屋の用途はわからないが、水回りや冷蔵庫があるので、スタッフラウンジか?
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似たような小部屋。液晶プロジェクターがあるので、小会議室としても使うのだろう。
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1階レベル、講堂の南側に東洋美術の展示室がある。中庭より西側はすべて地中に埋められており、この展示室の上部も芝生による屋上植栽になっている。
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展示室の外周は、コンクリート打ち放し壁で、適宜、移動可能な展示壁を設けて、空間を分割している。

最後にディテールの写真です。

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スポットライト・ディテール
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梁同士を結ぶ補助構造部材のスチール製ロッド トップライトのさらに上に、ルーバー状の太陽光発電パネルがある。その影が梁の際に見える。
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中庭を渡る歩廊の外部につけられた、ロールスクリーンのケース
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外壁のガラス窓を支える、強化ガラス製方立とスチール製ブラケット