前回紹介した集合住宅と同じ設計者、佐貫大輔さんによる、ホーチミン市内にあるRC造3階建ての戸建て住宅です。

このような路地を歩いていきました。

途中このような建物がありました。仏教の寺院です。ベトナムは人口の約8割が仏教徒といわれています。日本のお寺とはだいぶ雰囲気が違いますね。

高密度な住宅街の細い路地の突き当りにこの住宅はありました。

エントランスは2層吹き抜けの大空間です。ベトナムはリビングアクセスの住宅が多いようです。

2階の居間と空間的に連続しています。

右側には鉄板を折り曲げてつくられた階段があります。床は研ぎ出し仕上げ。

エントランス奥のダイニングキッチン。この窓を開けると倉庫があります。(施工中?)

2階居間からの見返し。ベトナムも基本的には靴を脱ぐ文化。内外の壁はともに耐水セメント(waterproof cement) 仕上げで連続的に見せている。

2階居間を左に折れると左手に階段、右手にテラスが見えます。

階段をのぼると3階

階段ディテール

3階寝室

3階テラスから屋上にのぼっていくらせん階段。

屋上。1階エントランスから屋上(4階まで)流動的でふくらみのある空間が、反時計回りに渦を巻いてらせん状につながっている。

屋上まで上ると、そこはホーチミンの市街地を見渡せる、屋上植栽のある展望テラスになっています。

屋上まで登り切って今度は時計回りにおりていく。

3階より2階リビング上吹き抜けを見る

太陽の動きも計算して、直射光で部屋が暑くなりすぎないことも考えて、部屋の配置や開口部の位置が決められているそうだ。

らせん状に吹き抜け空間を設けることで、間仕切り壁を立てなくても適度に視線が制御され、それぞれの階でまとまり感のある複数の居間(住宅におけるパブリック)がゆったりとつらなった構成を可能にしています。またそのことによって、それぞれの居間の縦横の空間の広がりも感じられ、実際の容積以上に内部のふくらみを感じることができる住宅になっているのではないかと思います。

設計者の佐貫さんは、故小嶋一浩さんの研究室の助手をつとめられ、弟子筋にあたる方です。小嶋さんは建築の平面や断面を「黒と白」で塗り分けて分析し、設計にも応用する手法を発明されました。「黒」は場所と目的が一対一で対応している空間(部屋)で、「白」は使い方によって呼び方が変わるようなあいまいな空間のことです。この建築もそのような手法の影響が感じられます。「黒と白」で言うと、この建築では「白」の部分がらせん状にのぼっていき、住宅におけるパブリックを形成しており、それにとりつくように各階に「黒」の部分に当たる個室が配置される構成になっています。

佐貫さんの図面では、小嶋さんにおける「黒」の部分が「グレー」で表現されています。(下の断面図でも同様)

 

「黒と白」については、2004年の小嶋さんの講演会の記録「越境的思考の可能性」を以下に転載しておきます。

「ここでは「黒」と「白」のお話をします。「スペースブロック」や「黒/白」も、建築を考える時の原理を僕自身の中でクリアにするためのものです。学校の設計では多くの人との打合せが必要になりますが、どのような意見に対しても明確な答えを出せるような軸がないと新しい提案は伝わりません。

「黒」は部屋名と使われ方が一対一で対応しているもので、倉庫、トイレ、理科室とか、住宅の個室や玄関のような空間です。「白」は使われ方によって呼び方が変わる空間です。社員食堂も時に講演会場になるなら「白」です。迫桜高等学校の場合だと、体育館は昇降口の後側にあって大玄関ホールにもなりますし、行事もそこでやるので「白」です。住宅でも学校の設計でも、みんなすぐにプランや面積表を見たがります。その用途の部屋があってかつ面積も広ければ、それをいい設計と思うのは当たり前かもしれません。しかし、プランのすべてが黒であると、ひとつの用途にしか使えないわけですから、使っていない時間も多く、もったいないともいえるのです。」(小嶋一浩)

(東西アスファルト事業協同組合講演会―私の建築手法 http://www.tozai-as.or.jp/mytech/04/04_kojima05.html より一部転載)

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小嶋一浩さんの編み出した手法が海を渡り、その後継者の手で応用され、ベトナムの気候風土に合った建築として具現化されていることに驚くとともに、感動しました。

佐貫大輔さん、ご丁寧なご案内ありがとうございました。また、新しい作品を見せていただけることを楽しみにしています。