2020年10月23日、せんだいメディアテークで第24回JIA東北建築学生賞の審査が行われ、各賞が発表されました。

まず、このコロナ禍の状況下で、会場に参加学生全員が集まって発表するのではなくZOOMを使ったリモート審査になったとは言え、例年と変わらず多くの学生さんが参加されて素晴らしい大会が開催されたことに、実現に向けて尽力された関係者の皆様方、せんだいメディアテークにお集まりいただいた審査員の先生方に敬意を表したいと思います。

 

 

そのなかで、日本大学工学部建築学科4年の和久井亘君の「まちの縁台に腰かけて」が最優秀賞に選ばれました。

今年、5月中旬から8月中旬まで、日大工学部建築学科の建築設計の授業を非常勤講師として担当しました。私の指導するユニットで和久井君が設計課題として作成したのが今回の作品です。

和久井君は私の事務所にインターンとして来てくれたこともあり、その人柄をよく知っていたので、喜びも一入でした。

学内の全体講評会で発表する和久井君

日大工学部に講師として通い始めて4年がたちますが、私が建築設計の授業で指導した学生さんが、このJIA東北建築学生賞で最優秀賞を受賞したのは、3年ぶり2度目となります。

3年前に受賞したのは当時学部4年の柳沼明日香さんですが、以下のリンク(私のブログ:第21回JIA東北建築学生賞)からその時の案を見ていただくことができます。その後、柳沼さんは全国の学生が卒業設計で競い合う「せんだいデザインリーグ2018」でも特別賞を受賞しました。大学院を経て、いまは大手組織事務所で活躍されているそうですが、着実にその才能をのばされているようで嬉しい限りです。

 

今年は、私が担当したユニットには十数名の受講生がいました。

受講生は、講師が設定した設計課題を見て、しばらく考えたうえで、希望するユニットを選ぶことができます。

4年生の前期の建築設計は例年2コマ×15回(週)で行われ、最後に各ユニットの代表者が全体講評に進み、そこで上位2者に選ばれたものがJIA東北建築学生賞に出品できるという仕組みになっています。

意欲ある学生は、その目標に向かって課題に取り組みます。

各ユニットから3人が学年全体の講評会に進み、そこでは計12人が発表しました。

発表後、講評会に参加した建築系の教員による投票を行い、得票数の多かった2人がJIA東北建築学生賞の応募作として選ばれて、今回の審査に望みました。

(JIA東北建築学生賞は各教育機関ごとに3名までエントリーできる規則になっており、日大工学部建築学科からは、3年生から選抜された1人を加えて計3人が参加しました。)

 

今年は、新型コロナウィルスの影響で、4月から開始予定だった授業が一月ほど遅れてスタートしました。

私のユニットでは、以下のような課題を掲げて、受講生に敷地、建物用途、コンセプトなどを自由に考えてもらいました。(4つのユニットがあり、それぞれ一人の講師が指導することになっており、ユニットごとに講師が課題を設定します。)

課題主旨(抄) 「2020 年に入って世界は大きく変わった。 新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により、人々の移動が規制されたり、通学・通勤、さまざまなイベントが自粛・制限されたりしている。 感染者が必ずしも発症しないという特性は、これまでに経験したことのない状況を社会に生み出している。例えば、ひとびとが集まることが否定されたときに、どんな建築や社会が成り立ちうるのかということを、初めて真剣 に考えた人も多いのではないだろうか。 感染症だけでなく、気候変動(異常気象)、国際紛争、食料・エネルギー問題、AI・ロボットの発達とそれに伴う社会構造の変化等、今後ひとびとの暮らしを大きく変えてしまうファクターが世界には数多く存在する。 そのような状況を踏まえて、2020 年代以降の新しい建築のあり方について提案してほしい。 建物の用途は問わない。社会の変化は常に新しい建築を生み出してきた。悲観的な状況の中から、一筋の光を見いだすような建築を期待している。」

4月から予定されていた講座に合わせて、課題を設定するように大学から要請があったのが2月末頃でした。その頃はまだ、東京オリンピックの延期も決定しておらず、新型コロナウィルスが世界的にどのような影響を社会に及ぼしていくのかがまだよく見えない状態でした。しかし、ウィルスのキャリアになっても発熱などの症状が出ないため、とにかく人々が集まることを避けなければならない、というようなことはわかってきていました。(政府や自治体の長が「三密」を避けるように言い出したのは3月半ば以降です。)

昔から人々が集まる場をつくるというのが建築の中心的課題としてありましたが、近年とくに、「集まる」といえば手放しで高評価につながるような雰囲気があったことは否めません。そこに、新型コロナウィルスが簡単には人々が集まれない状況をつくりだしてしまった訳です。4月からの大学の設計課題として取り上げるのは、少し性急な気もしましたが、学生たちとともに、コロナ禍の中の、あるいはコロナ後の建築というものを考えてみたいと思い、このような課題を掲げ、ユニットの参加者を募りました。

5月から6月にかけて、最初の6~7回くらいは、Google Meetを使ったリモート授業でした。

参加者はそれぞれの思いを、毎回レポートにまとめ、授業の前日までにPDFで提出、私が目を通したうえで、当日順番にオンラインで発表してもらい指導を受ける、それを受講生全員がGoogle Meetで自室で聴いているという形式をとりました。私も事務所の一室にいて、そこからひとりひとりの発表を聞き、講評していきました。

 

従来の対面型授業の場合には、2限続きの授業時間内に、三三五五、指導を受けたい学生がやってきて、周りで見聞きしている人もいるが、受講生全員が一堂に会していることは少なかったように思います。

それに比べると、オンライン授業では、ひとりの発表を比較的多くの受講生がきいていたようで、その点ではオンライン授業も悪いことばかりではないと思いました。しかし、直接顔を合わせたり、仲間の学生の反応を見るということができないので、やはりオンライン授業だけでは臨場感がなく、設計製図の授業をそれだけで完結させるのはなかなか難しいと感じました。

対面授業でも見られることではありますが、着実に案を発展していけた人と、途中で停滞してしまった人の差が、オンラインへの適応力や個人的な資質によって開いてしまったようにも思います。

 

以下に、エスキスの様子をいくつか掲載します。

 

井原君のエスキス案。2020年以降の社会の変化によって利用者の減少したJR郡山駅を、住宅などにコンバージョンする提案。

 

 

和久井君のエスキス案。地元郡山の二つの公園を結ぶ水路沿いに点在する空き家を、シェアオフィス等に再生して、既存のストックを活用しながら、地域の活性化を図ろうとする試み。

リモートで7回ほどエスキースチェックを行った後、対面式授業を6月末から行うことができるようになり、そこから6回ほど対面式授業を行いました。

対面式授業といっても、ユニットの受講生全員が一斉に集まれるわけではなく、10人以下になるように、2班に分け、前半後半で完全入れ替え制で指導を行いました。

そのような形で、何とか前代未聞のコロナ禍のなかで、初めてのリモート(+対面)による設計製図の授業を何とか乗り切り、8月にはユニット内の発表会を行うことができました。

 

以下は、学年全体の講評会に進む前の、ユニット内発表会の作品の数々。

 

濱口君の作品

ウィズコロナ時代の特別養護老人ホームの提案。近年注目されている福祉施設の脱施設化というテーマも合わせて考えている。その平面図、立面図を見ると、街並みのようで、作者のやりたかったことがよく伝わってくる面白い提案になっている。

 

森君の作品

地方都市に住んでいると、医療施設は個人経営のクリニックか、数百床以上のベッド数をもつ大規模総合病院に二極化しているように感じられる。中学校区に相当するコミュニティに対応するような中規模の診療所が、地域コミュニティの中心として、その地域の住民の健康維持のためにあってもいいと思う。それに気づいた作者の着眼点はなかなかよい。

 

根本君の作品

待機児童問題とコロナウィルスの問題を同時に解決して、次世代の保育園としたいという提案。

 

長部君の作品

コロナ後の新しい生活様式の下で、カフェ、オフィス、学童保育などの機能をもった地域活性化の拠点をつくろうという提案。

 

野村君の作品

最近はめずらしい手描きでのプレゼンテーション。今回のテーマに沿ってオフィスと集合住宅を組み合わせたものを途中まで模索していたのだが、最終的には単一機能のオフィスビルの計画となってしまったのが残念。

 

渡辺君の作品

6つの世帯のためのテラスハウスのような集合住宅。各世帯の居住者を具体的に想定したり、それに合わせて画一的ではない住戸プランを計画したりしているのはとてもよい。だが、最終的にできた提案は、このユニットのテーマからはやや外れてしまっている。

 

大谷君の作品

従来から問題となっていた学童保育の不足の問題に取り組みながら、コロナ禍のもたらすテレワークの増加がコミュニティの消滅を助長させるのではという作者の考えから、児童に限らない地域社会の交流の場をつくろうとした提案。

 

全員にパネルと模型を使いながら発表してもらい、審査した結果、私の指導したユニットからは、井原君、中田君、和久井君が全体講評に進むことになりました。

 

以下、全体講評に進んだ作品です。

 

井原君の「Living Station」

コロナ禍後、大概の出張は実は不要だったという声をよく聴く。新幹線の乗降客数が元に戻らなかった近未来の郡山駅のコンバージョンである。不特定多数が行きかう駅の、騒音の激しい新幹線ホーム下に、あえて集合住宅や演奏空間を設ける提案は少し無謀とも思えるが、過去の生活様式と決別し、既存の都市インフラを有効活用しながら、より豊かな暮らしを送る一つの方法を、これからの時代を担う若者が真剣に考えた結果であり、その勇気を評価したい。

 

中田君の「結び」

コロナ禍を受けた東京一極集中の是正、地方都市の再生をテーマにした提案。郷里の倉敷駅近くに、留学生も受け入れる集合住宅と、農場、食品加工場、そしてその販売所を近接させた6次化拠点を整備し、歴史的町並みの保存地区とはまた違う趣の観光拠点をつくろうとしている。ロケーションと諸機能の取り合わせの意外性が、新しい可能性を開くかと期待したが、昇華しきれなかったのが残念。着眼点は面白いので、地元のまちづくりを継続的に考えてみてほしい。

 

そして、和久井君の「まちの縁台に腰かけて」

 

テレワーク普及後、実は自宅に日中の居場所がないという人も多い。郡山市内の小川沿いに点在する空き家を遊歩道で結び、レンタルオフィスやスタジオ、図書館、カフェなどを、共同出資の枠組みでつくろうとする試み。一つの箱に集約して新築するのではなく、各機能をランドスケープの中に既存家屋を減築しながら鏤めようとしている点が、縮小時代の都市再生への解だけでなく、密を避けた新しい時代のまちづくりのあり方も示している。

 

今年は、ユニット内の発表を終えて審査をしたら、すぐに各ユニットの代表者が集められて、学年全体での発表会+講評会が行われました。

例年であれば、300人くらい収容できる学内のホール(大教室)に4年生を中心とする多くの学生が見守るなかで、ユニットの代表者の発表が、TVカメラも入れて行われるのですが(第21回JIA東北建築学生賞のブログ参照)、今回は新型コロナウィルスの影響もあって、製図室に、12人の発表者と審査・講評に当たる数名の先生方のみが集まって、こじんまりと行われました。

 

以下は、学年全体の講評会で、和久井君が発表している様子

 

全体講評では3Dプリンターを使った模型もありました。(下の写真)

全体講評では、和久井亘君の「まちの縁台に腰かけて」と川上陸君の「紡ぐ学び舎」が、JIA東北建築学生賞への応募作として選出されました。

 

川上君の「紡ぐ学び舎」

 

JIA東北建築学生賞は、例年、せんだいメディアテークでの、対面式の公開ヒアリングでの審査を行ってきましたが、今年はZOOMを使ったリモート審査でした。(審査員のみせんだいメディアテークに集まって審査)

 

 

和久井亘君の「まちの縁台に腰かけて」のJIA東北建築学生賞出品用にA1にまとめたものが以下のパネルです。(JIA東北建築学生賞では、模型は提出せずにA1パネル一枚にまとめることになっています。)

 

 

設計主旨「空き家と公園、二つのストックの潜在力を引き出しながら、新しい時代の環境を形成する」

2020年以降の建築・都市を考える上で、人口減少や空き家の問題は避けて通れない。しかし、そうした現象は必ずしもまちにとって悪い影響を与えるものではない。人口が減少し、街中にストックが溢れ出てきたとき、その都市の余剰空間をどう利用していくかがむしろ重要である。

私の住む郡山では以前から多くの公園が整備されてきた。しかしながら、公園から一歩入り込むとありふれた住宅街の光景が目に入るだけだ。郡山にしかない独自の景観をつくり出すことを考える中で、魅力の一つである公園を積極的に活用していきたいとも思った。

空き家と公園、二つのストックを結びつけて、新しい時代の建築や都市のあり方を模索した。

新型コロナウィルスの流行が、結果としてテレワークを後押しする一方で、現在の居住環境ではその場所の確保が困難な人も多い。まず、空き家をまちのシェアオフィス空間とし、更に発展させて地域の人々の「+αのリビング」として機能を超えた地域交流の基点とする。まちの縁台として再生された空き家は近代化によって失われた道端での交流を蘇らせ、優れた景観やサードプレイスを提供するだけでなく、目に見えない地域コミュニティの復活にも貢献するだろう。

郡山には多くの公園があるものの、公園と公園を繋ぐものが少ない。今回二つの公園の間にある空き家をランドスケープとともに整備しつつ、やがてはランドスケープ自体が自然を孕んだ森となり、両端の公園と一体となる都市空間を構想した。竣工時から数十年以上に亘り、自然と人工物、そして地域社会が、更新を重ねながら成長していける持続可能な環境の提案である。 (和久井亘)

 

厳正なる審査の結果、和久井亘君の「まちの縁台に腰かけて」が、最優秀賞に選ばれました。

 

(11月5日、日本建築家協会東北支部HPで、審査経過・審査員講評が公開されました。これまでの受賞作品のアーカイヴはこちら。)

 

こうやって、5月からの建築設計の授業を振り返ってみると、今年はなかなか大変だったなあと思います。どの学校の学生さん、先生方もきっと同じような苦労をされていることでしょう。

その苦労を乗り越えて、各賞を受賞されたみなさん、まことにおめでとうございます。

そして参加したすべての学生さん、参加に至らずに涙をのんだ人たちも、こんな状況の中でよく頑張ったと思います。卒業設計など次の機会での活躍を期待しています。

 

オンライン授業も悪いことばかりではないとは思いますが、設計製図の授業はやはり対面型でないとむずかしいところがありますね。

いま、国内外で、冬に向かって第三波の襲来が懸念されています。新しい生活習慣を継続する必要もありそうですが、来年の授業のころには、さまざまな状況が好転していることを祈っています。

 

最後に和久井君、本当におめでとう!今後の活躍にも期待しています。