以前、アメリカ旅行をしたときに訪れた、Philip Johnson の自邸 Glass House。
少し間があきましたが、 写真等をここに共有しておこうと思います。
場所はコネティカット州のニュー・ケイナン。
Philip Johnson は以前紹介した、エイモン・カーター美術館を設計した建築家です。
泊まっていたNYのアパートから一番近い駅から電車に乗って、Stamford駅まで行く。
車窓からの眺め。
Stamford駅で乗換えて
New Canaan 駅到着
駅のすぐ近くに、Glass Houseのヴィジター・センターがある。
建物に一歩足を踏みいれると、ギャラリー兼売店となっている。
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現在、ジョンソン邸は、ナショナル・トラストの管理のもと、一般公開されている。事前予約制。インターネットで申し込み可。
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ガラスの家と斜に向かい合う位置に建っているレンガの家。じつは主架構は木造。寝室、居間、シャワー、トイレ、クローゼットが内包されている。ガラスの家と対照的に、かなり閉鎖的な住宅。二つで一対となり、互いに補完することで初めて住宅として成立していたのかもしれない。
Philip Johnsonは、アメリカの近代建築史上、極めて重要な人物。アート界にも多くの友人をもち、影響力をもっていた。
1979年に設立された、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞の第1回受賞者。
古典的な装飾様式を引用した代表作AT&Tビル(現ソニービル)(1984年)は議論を呼び、以後「ポスト・モダンの帝王」とも称される。
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大学卒業後、親から巨万の富を相続し、5万7千坪の広大な敷地に、50年の歳月をかけて、少しずつ、建物を増やしていった。その最初期に建てられたのがこのGlass Houseである。
ミース・ファン・デル・ローエのファンズワース邸(1951年)の模型をみて着想をえて、それが竣工するよりも早く、ジョンソンがガラス張りの自邸を完成させたと聞いたことがあるので、ガイドにそれを尋ねると「その可能性は十分ありえる」という答えだった。
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ミースが、弟子のジョンソンにこの家に招かれてとても機嫌が悪くなったというのは有名な話らしいが、それが、その剽窃疑惑によるものなのか、建築の質にミースが違和感を感じてのことなのかは定かではない。
しかし、今でこそ、このような平屋のガラス張りの箱のような建物を見ても驚かないかもしれないが、太平洋戦争終結直後のその時代には、今までどこにもないような建物であったに違いない。しかもこれは住宅である。
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確かにここで日常的な暮らしを営むことは不可能であり、週末住宅としての最低限の機能しかない。ここには生活感がほぼないといっていい。
だがその生活感ゼロの住宅を(近代以降の)世界でおそらく初めて実現したことがこの建築の特筆すべきことであり、都会の喧騒から離れて大自然のなかで週一度リセットするためには、理想的な住宅の、ひとつの究極の形と言えるだろう。
コルビュジエも、ライトも、ここまで生活感のない家はつくっていないし、ミースは建物の実現という点ではジョンソンに出し抜かれてしまった。自ら巨万の富を相続し、建築主と設計者を兼ることができたジョンソンだから可能となった世界にも稀有な住宅。
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しかし、近代に限らずに言えば、桂離宮や修学院離宮などの、日本の天皇家の別荘は、内外一体となった空間のあり方や、生活感の希薄さなど、この住宅に近い雰囲気をもっているようにも思える。広大で自然豊かな敷地のなかに、いくつかのPavilionを点在させるというあり方も似ている。
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Philip Johnsonは2005年、98歳で、このベッドの上で、45年間にわたるパートナーのDavid Whitney(美術のキュレーター)に看取られながら、この世を去った。Johnsonは生涯独身であったが、自分がゲイであることを1993年に公にしていた。
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家具の配置はジョンソンにより正確に決められ、誰かが動かしても、元の位置に寸分たがわず戻されたという。
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この建物には庇がないが、緯度の高い地域ではあるが、真夏の熱環境はどうなのだろう?また、逆に真冬はガラスを通して相当な熱損失があるのではと心配になる。それでもジョンソンは60年近くの間、この週末住宅に通い続けたのだ。
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ジョンソンは全米各地に、生涯で100にも及ぶ数の建築を手がけた。当時は実業家であった、現米大統領ドナルド・トランプの所有する豪華ホテルも設計したという。トランプ氏がこのグラスハウスを訪れたかはわからない。
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この建物は、ジョンソンの友人でもあるアーチストの、フランク・ステラによるドレスデンの美術館のデザインから着想をえたと、ジョンソン本人が語っている。事実、この建物の模型ができたとき、「ドレスデン2」と名付けステラに見せているそうだ。
建築のカテゴリーとしては、フランク・O・ゲーリーやザハ・ハディドのような、デコンストラクティヴィズム(脱構築主義)に近い。
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このDa Monsta以降、この敷地に、新たな建物がつくられることはなかった。この建物の設計中に、ジョンソンは以下のような意味のことを書き残していたという。
「今でも私の心の奥からは、次々と新しい建物のアイディアが浮かんでくる。でも、もうこのニューケイナンに新しい建物をつくる機会は巡ってこないだろう。ま、いいさ。この場所に、もう新しい建物は必要なかろう。書き続けてきた普請の日記も、そろそろ書き納めのようだ。」
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Philip Johnsonは、「自己の表現(オリジナリティ)」というものに囚われず、時代の流れの中で、他人がやっていることでも面白いものがあれば何でも取り入れてやってみようというような、遊び心と自由な精神があった。無節操という批判を受けても、どこ吹く風という感じだったのではないだろうか。その彼の個性なき個性は、近現代の世界の建築思潮に大きな影響を与えた。
New Canaanの別荘には、ひとつとして同じ様式の建物がないように思われた。Johnsonはここで私財を投じて、建築的実験を行い、自分で暮らしてみて実感したことを、実作へと応用していたのではないだろうか。群として程よい密度になった頃合いで、Johnsonは実験を終え、少しずつ実社会から離れ、そこでの余生を静かに楽しんだのかもしれない。
次の目的地、New Heaven へ。
(参考文献:芸術新潮 2009年6月号)