ルイス・I・カーンの40年ぶりの新作、フランクリン・D・ルーズベルト・フォー・フリーダムズ・パーク(「四つの自由」公園)を取り上げたいと思います。
竣工したのは4年前ですので、それほどホット・ニュースでもないのですが、私はNYに住む友人の玉木興陽君に教えてもらって最近になって知りました。
フランクリン・D・ルーズベルト大統領を記念するフランクリン・D・ルーズベルト「四つの自由」公園は、カーンが設計した40年後の2012年にオープンしました。
ルーズベルト島の南端に位置するこの公園は、カーンの遺作となりました。1974年に亡くなったとき、カーンはこの公園の設計図を携えていたそうです。
この公園は、現在、建築家カーンとフランクリン・D・ルーズベルト大統領の両方の功績を称えるモニュメントとなっています。
施設の概要は、「4つの自由」公園、ホームページで紹介されています。
ルイス・カーンは、以前ご紹介したキンベル美術館を設計した世界的建築家で1974年に、心臓発作で客死しています。
数日間、身元不明のまま、倒れていたペンシルベニア駅最寄りの市営遺体安置所(モルグ)に眠っていたというのは有名な話です。その時もこの公園の設計図を離さずに持っていたのでしょうか?(それなら、もっと早く身元が分かりそうなものですが…)
今回の写真は、このカーンの新作を教えてくれた、前述のNY在住の写真家・玉木興陽氏が撮影して送ってきてくれました。(2016年6月13日撮影)
ご厚意で、この空間日記に掲載させていただけることになりました。深く御礼申し上げます。
いきなり白黒画像になったからといって、ご使用中のパソコンやスマホが故障してしまったわけではありません。(笑)
玉木さんの現在使用しているカメラは、ライカの「M Monochrom」の初代の型だそうです。
このカメラはデジカメなのに、モノクロ写真しか撮れないという、ライカこだわりの逸品です。カラーも拾えるセンサーのはずなのに、モノクロしか撮れなくしてしまうとは!具体的には知りませんが、びっくりするようなお値段らしいです。玉木さんも、4年前に発売された当初はバカにしていたらしいですが、一度人から借りて撮影してみたら、すっかりその虜になってしまったとか。いまや肌身離さずもち歩く相棒になっているようです。
確かに、ほかのデジタル一眼レフで撮った写真では出せない空気感のようなものがあり、実に味わい深い写真です。玉木さんの腕前なしには使いこなせない、玄人好みのカメラであることは言わずもがなですが。
ここから先は、玉木興陽さんの写真をお楽しみください。(無断転載・複製は固くお断りします。)
カーンは1960年から61年にかけて、Washington DCのWest Potomac Parkに建設予定だった、F.D.Roosevelt Memorialのデザイン・コンペティションに招待されています。
その時の案が、以下に示すものです。(Louis I. Kahn Complete Work 1935-1974 (Birkhauser社刊)より。この作品集では、NYの公園と10年以上のインターバルがあるものの、比較のために隣り合ったページに掲載されています。)
WashintonのF.D.Roosevelt Memorial は実現されなかったようで、Google Earthで見ると、現在は運動場になっています。
フランクリンD.ルーズベルトは、民主党出身の第32代大統領。世界恐慌、第二次世界大戦時に在任し、米国政治史上、唯一四選された大統領。恐慌への具体的政策として、ニューディール政策をはじめとする、ジョン・メイナード・ケインズ流の福祉国家的政策を開始し、続いて、第二次世界大戦への参戦を決め、戦時需要を生み出したことで、米国経済を世界恐慌のどん底から回復させたと評価されている。ラジオを通じて国民との対話を重視したといわれ、現代の政治家像の先駆けのような存在でもある。歴代大統領の人気投票で上位五傑に必ず入り、現在でも国民的支持は高い。
「Four Freedoms(四つの自由)」とは、1941年1月6日 F.D.ルーズベルト大統領が一般教書のなかで表明した民主主義の原則で,(1) 表現の自由,(2) 信仰の自由,(3) 欠乏からの自由 (平和的生活を保障する経済上の相互理解) ,(4) 恐怖からの自由 (軍縮による侵略手段の除去) の4つの自由のことです。この公園の名前はこのスピーチに由来しています。
モノクロの方がむしろ、目に見えない何かが伝わってくるような、不思議な臨場感がありますね。
なまじ情報量が多い「総天然色」よりも、ものごとの本質がよく表れているような気がします。
没後40年の時を超えて実現した新作。ほぼカーンの構想そのままに仕上がっているようです。
その長い歳月に何があったのか、詳しくはわかりませんが、ただアメリカにおける建築家ルイス・I・カーンの評価がいかに高いかというだけでなく、それだけの時間を超えて一人の建築家の作品を実現させたアメリカ社会の底力とこの分野における成熟、そして、カーンが単なる建築家を超えた真の芸術家・創造者であったということを、むしろ、アンビルトのまま醸成を待っていた40年の時の厚みが物語っているようです。
時を超えて永遠に残っていくことを疑わない、古典的で静謐な空間。是非一度足を運んでみたいですね。
玉木くん、本当にありがとう。また、何か面白いものがあったら教えてくださいね。