今まで鶴岡市内にある、古民家再生事例を三例見てきました。この日最後となるのが「知憩軒」です。

旧鶴岡市内、旧藤島町、旧羽黒町とまわってきて、最後は旧櫛引町です。これらは2005年の平成の大合併ですべて鶴岡市になりました。今振り返るとちょっと乱暴な感じもしますね。

築60年弱ということでしたので、「古民家」再生というカテゴリーに入るのかは微妙ですが、これまで人の住んでいた在来工法の日本家屋を、違う用途に転用してうまく使われている事例として取り上げてみたいと思います。

今まで見てきた三軒と較べて、一番鄙びた(決して悪い意味でなく)農村集落にある、農家レストラン兼民宿です。

“Chikeiken” is a farmer’s restaurant and a tourist home in Kushibiki district of Tsuruoka city, Yamagata Prefecture. The building of this restaurant is originally nearly 60-year-old farmer’s house. It is located in really rural area of this district. It is not easy for you to find this restaurant without a guide ! But it has special atmosphere like hiding place.

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駐車場からの近道だが、雪のため今回は使えませんでした。微笑んでしまうような、ちょっとユーモラスな看板。肩の力が抜けたゆるい感じがいいですね。
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最初は道を間違ったかと思うような、本当の農村集落の一画に「知憩軒」はあります。それが、また魅力なのでしょう。
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歩いていくと先に見える、こちらの建物が宿泊施設になっているそうです。
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上の写真の建物を越して左に回り込むと右手に母屋が見える。垂木の小口が白く塗ってあり、アクセントになっている。
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玄関と「知憩軒」の看板。 「憩うを知る軒(家)」(→軒下で憩うを知る(心に感じ取る))という命名。
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昨年までは、冬期間も営業されていたが、どうしても冬場はお客さんが減るので、今年から休業としてみたとのことでした。でも、お願いして中を見せていただきました。
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玄関を振り返ったところ。
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玄関を上がって左手にある、廊下兼縁側。
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玄関突き当りにある、板の間のダイニングルーム。カウンター席がついているが実際はギャラリースペースのような空間。雪に照らされた障子からの光が板の間に反射してちょっと幻想的な雰囲気ですね。
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同上。
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カウンターの奥がキッチンとなっている。
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ここで採れた野菜と米、地元産の食材で、素材の持ち味をいかした料理がふるまわれている。基本的に、畑でその日採れたものが食卓に並ぶというスタイル。

「工夫と言いますか、素材そのものの味を楽しんでいただけるように、薄味で味つけしています。そして、農家の暮らしを実感してもらいたいので、変わった料理ではなく、ご飯に一番合う普段の農家の食事をお出ししています。また、昔は冷蔵庫がなかったため、魚に火を通して食べるのが海から離れた里の料理でした。その土地を肌で感じ、舌で味わってもらい、五感全てで楽しんでもらいたいです。例えば春は山菜。庄内の山菜は雪の下でじっと寒さに耐えながら栄養を蓄え、雪が溶けると一気に伸びるため、やわらかくて甘くおいしいです。夏は自分の畑で採れるナスやトマトなどが新鮮でおいしいですよ。」(女将さんが後述の「食の都庄内」のインタビューに答えて)

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大広間。こちらが食事室となる。今はお客さんをとっていないので、餅が伸してあったりして、昔の農家時代に少し戻ったような感じですね。
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仏壇や神棚はそのままにしてある。
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床の間。内部を見ていくと、最初の板の間のカウンター以外は、ほとんど触っていない(オリジナルのままで化粧直し程度)ようです。
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振り返ると、板の間のダイニングが見える。4月からはまた、ここに座卓を並べて、にぎやかになるのでしょう。
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六畳の個室。
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同上。床の間の上の襖絵もなかなか素敵ですね。

こうやって見てみると、築年数(例えば築100年を超えているかどうかというようなこと)は、あまり関係ないような気がしました。

昔ながらの技術をもった大工さんが活躍していた時期に建てられた日本家屋で丁寧に受け継がれてきたものは、少し日が浅くとも、なかなかの雰囲気を持っているし、残していく価値を持っているものだと思います。

実は、このような、古民家と呼ぶには微妙な年齢の日本家屋というのは、日本中にたくさんあって、あまり脚光を浴びずに、再利用されるのを待っているような気がします。

しかし、いわゆる「古民家」ほど骨董的価値のないものとして見捨てられ、味もそっけもない、規格型工業化住宅に置き換えられているのが現状かもしれません。

歴史的価値のある古民家の活用も重要ですが、農村等に残された、このような住宅が生き延びていけるようなシステムをつくっていけないものでしょうか。

住みにくいなら、現代の建築技術で、構造を補強し、断熱性能や防水性能を向上させる、あるいは最新の照明や空調設備、衛生器具(水回り)を導入するなどの工夫をしてもいいのです。

日本の過疎地の村おこしなどを考えるときには、この「知憩軒」のような古い住宅の活用法がむしろ参考になりそうです。(この地域が過疎地であるという意味ではありません。)

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知憩軒の女将さんは「食の都庄内」を支える庄内人のひとりとして紹介されています。 →長南光さん。

女将さんはインタビューに答えて、「やはり県外からのお客様は多いです。一度泊まってくださったお客様の口コミのおかげで、今では全国からお客様が来てくれますよ。特に関西、九州からのお客様は食文化や風景が全く違うので刺激を受けているようです。」と語られています。

県内よりも、むしろ県外から!すごいですね。リピーターも数多くいそうですね。

「農村文化、食べもののおいしさをお客様に理解してもらいたいです。宿泊して農村の暮らし、すんだ空気や癒しの空間を体験し、お米や野菜を食べてもらってお米や野菜の大切さ、農村が大切だと理解してくれる“農村の応援団”を増やしたいですね。」というのが女将さんの願いです。

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このような隠れ家的な店を紹介してもいいのかな、という感じですが、どうぞご紹介くださいということでしたので(笑)

このときいらっしゃった娘さんのみゆきさんから名刺をいただきました。(チラシ等はないそうで許可を得て名刺を掲載させてもらいます。)休業中にもかかわらず見学させていただきありがとうございました。

娘さんは地名に「櫛引」の名が残っていないことをたいへん残念がっていましたね。学校や庁舎の名前にかろうじて残っているようですが、なんとかならなかったのでしょうか?全国で同じような「地名消滅」問題に悲しんでいる人が大勢いることでしょう。

春になったら一度食事によらせていただこうと思います。

 

これまで、「菜ぁ」「藤の家」「金沢屋」「知憩軒」と鶴岡市内にある四つの古民家再生の事例を見てきました。

「同じ場所での保存・再生か、移築か」といった違いや、築年数の違い、再生するにあたってのコンセプトの違いなど、それぞれに特徴があり、たいへん勉強になりました。取材させていただいたみなさんありがとうございました。

これからも、活用事例を研究していきたいと思います。そしていつか、古いものを残していくことに、自ら参加できる機会がもてればと思います。