2018年11月に中山町の公営住宅のPFI事業の公募があり、設計(協力企業)として参加しました。

公営住宅の敷地には、中山町の提唱する「健幸づくり」(身体を動かして健康になろうという理念)のための、住民だけでなく町民が自由に利用できる「健幸ひろば」を併設することが求められていました。

プレキャスト・プレストレスト・コンクリート造の人工地盤の上に載った木造の5棟(1DK6戸、2LDK(または3DK)6戸を内包する)が、芝生広場を取り囲む構成。手前はRC造3階建ての既存公営住宅。(この公営住宅は階段室型でバリアフリーではない)

ユニバーサルデザイン(バリアフリー)を考えると、接地した平屋案とするのが一番いいのですが、それでは、町民が気兼ねなく利用できる広々とした広場をつくるのは難しいし、イベントなどを開催した際の住民のプライバシーが保たれないことが懸念されました。そこで我々のチームは、1階部分を人工地盤(ピロティ)として多目的に使える「大きなあずまや」とし、その上に木造の準戸建て住宅を載せる提案をしました。

通常、全部を人工地盤にすることは費用的な問題で難しいのですが、今回は住宅内部の床面積約200坪に対して、約3.8億円の予定価格が示されており、通常の坪単価で建物を計画して、外構空間を普通に整備しても、相当な余剰金が出ることが見込まれました。ということは、そのお金を、市民が健康づくりのために使える広場をもちながら、住民のプライバシーも保たれる施設をつくるために積極的に使うべきだ、そのために大きな予算が確保されているのだというのが、私たちチームの出した答えでした。予定価格ほぼぎりぎりまで使えば、何とかこの提案が予算的に成立することを確認しました。そして、この人工地盤案には、上記の理由にもまして重要な、町民の生命と財産を守るための提案が含まれています。

https://www.town.nakayama.yamagata.jp/uploaded/attachment/2045.pdf

今回の建設予定地は上の黄緑色の◎の位置ですが、1967年の羽越水害の浸水範囲に入っています。そしてこの中山町の発行している洪水ハザードマップにおいて、今回の敷地は浸水深2m~5mの範囲に属しています。

羽越水害(1967)の時の写真

これは、最上川と須川に関して、それぞれ100年に1回程度の水害を想定したものだということです。

そもそも、ハザードマップにおいて浸水深2~5mの場所を公営住宅の敷地に選ぶことの是非もありますが、このような敷地を条件として与えられた以上、仮にそのような水害があった場合でも、水没を免れることができるように計画するというのは、前提として考えるべき非常に重要な要素だと思います。我々の提案は、(おそらく唯一)浸水深3mの水害があった場合でも、ここに居住する町民の生命と財産が守られる提案となっています。

残念ながら私たちのチームの提案は選ばれませんでした。もちろん、その他の具体的な提案の不足など、問題点もあったろうと思います。

当選した案は、平屋案で最も安い入札額(約2.7億円≒予定価格の約71%)だったようです。PFIでは価格も評価項目に入っているので、安い金額で入札することは大きなアドバンテージになります。

しかし、平屋案は100年に一度の水害が訪れたら、この敷地では完全に水没してしまい、建物そのものの損傷(全壊も含む)を免れないばかりか、住民の生命(もちろん避難はするでしょうが)や財産を守れない可能性があると言えます。羽越水害は今から約50年前に起こりました。近年、思いもよらない自然災害が各地で起こっています。ハザードマップに謳われた100年に一度の水害は、この公営住宅が竣工した直後に起こってもおかしくありません。

もしそうでないのだというなら、「町民はこのハザードマップなど、普段の生活では念頭に置かなくてもいいのだ」ということになり、ハザードマップはその存在意義すら怪しくなってしまうのではないかと思われます。

1階ピロティ部(大きなあずまや)

 

1DK内観
1DK内観

 

 

2LDK内観
2LDKの寝室

 

南立面

 

3DK内観
2LDK 3DKのテラス

ハザードマップとは、単に万が一の非常時の避難手引書であり、建物の建設に際しては参照しなくてもいいものなのか、今回の結果を見て、考えさせられました。

公共事業案選定時の価格点の算出においては、単に建物の建設費用の比較だけでなく、将来災害が起こる場合も想定した、町の長期的な財産(ストック)としての評価を定量的に行う必要があると考えます。

この敷地において、大きな水害が起こらないことを祈るばかりです。

中山町洪水ハザードマップ

芋煮発祥の地といわれる中山町-秋は芝生広場で芋煮会