結論から言えば、よい建築家(設計事務所)に頼めば、同じ金額であっても、より高い価値の建物を手にすることができるといえます。
ではなぜ、建築家(設計事務所)に頼むと割高になると思われがちなのでしょうか?
設計・監理をご依頼いただくと、その仕事に対する報酬をいただきます。これが設計(・監理)料といわれるものです。
この「設計料」に対する誤った認識が、ご質問のような誤解が生む大きな要因になっているのでは、と思われます。
それでは、設計・施工一括発注方式の場合、設計料は発生していないのでしょうか?
住宅の場合ハウスメーカーが、その他全般の建物の場合ゼネコン(工務店)が、設計・施工一括で仕事を受注するケースがよくあります。そのとき、設計料はただと思われがちですが、工事費や諸経費のなかに、見える形・見えない形で含まれていることがほとんどです。契約成立前でもサービス(無料)で設計しているところもありますよ、という声を耳にしたことがありますが、契約不成立の場合は、契約・着工まで至った別の顧客がその費用を肩代わりしていると考えてよいでしょう。
設計・施工を一括して受注する場合、設計部門と施工部門が同じ会社の中にありますので、設計・監理に当たる担当者が、本来代理人として振舞わねばならない施主の立場だけでなく、施工者の利益にも配慮しなければならないという「板ばさみ」状態が発生します。つまり、それらの会社の設計・監理者は、いくら良心的な人でも、立場上、建築主の代理人になり切れないという難しさがあります。
建築家(設計事務所)に設計・監理を依頼すれば、経験と専門知識をもったプロフェッショナルが、100%建築主の立場にたって、設計・監理を進め、与えられた予算の中で最高の品質と安全が確保できるようにコントロールしていくことができます。実施設計完了後、複数の施工者から相見積もりをとり、その内容を査定したうえで、施工者を決定することも可能です。
また、ハウス・メーカーの場合、部材を規格化することによりローコスト化を図っていますので、比較的安価であるというメリットがある反面、設計の自由度は高いとはいえず、本来住宅建築の満たすべき多様かつ複雑な条件に、十分対応した設計案にはなりにくいというデメリットもあります。分母が大きいとはいえ、TVなどでの広告・宣伝費、モデルハウスの建設・維持費、展示場内外での営業経費も、当然、住宅の価格に転嫁されています。
建築家に頼めば、敷地の条件や施主のご要望に応えて、自由な発想で、一から丹念に設計します。施主との対話の中からヒントを探し、敷地の特殊条件や家族構成など現在の個別要因はもとより、世代交代など将来の見通しにも配慮しながら、そこでの生活の質がより高くなることを目指して、知識や知恵を総動員して進めていきます。設計にかける時間も労力もまったく違いますので、ハウスメーカーの見積もりに設計料に相当するものがあったとしても、単純に比較できるものではありません。ハウスメーカーのようにシリーズごとに同じ部材を大量発注・大量生産することはできないので、その分どうしても工事単価は上がります。
ですから、ハウス・メーカーの坪単価より安く建てることはなかなか難しいかもしれませんが、長期的な視野に立って総合的に考えれば、同じ値段でもより価値の高い建物を手にすることができるといえます。
建物は、一般に、一生に一度の大きな買い物であり、次の世代にも引き継がれる大切な財産となるものです。
建物を建てる仕組みはさまざまで、それぞれに良し悪しはありますが、建築家(設計事務所)に設計・監理を依頼することは、賢明な選択の一つといえると思います。