12月6日 映画「だれも知らない建築のはなし/INSIDE ARCHITECTURE」を見ました。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2014のために制作された映像作品を、劇場公開用に、新しく取材した映像を加えて再編集した、石山友美監督による、ドキュメンタリー映画です。

東北工業大学と日本建築家協会の共催で、仙台では一日限りの上映でした。

東京では、5か月のロングラン上映だったようで、建築関係者のみならず、多くの一般の方々が、関心をもってみた映画だということです。

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会場は伊東豊雄設計のせんだいメディアテーク。安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、レム・コールハース、ピーターアイゼンマン、チャールズ・ジェンクスという建築家・建築史家に加え、A+Uの中村敏男、GAの二川由夫という建築雑誌編集者(編集長)へのインタビュー映像に、ほぼ静止画に近い象徴的な建築作品の映像を合わせて編集された映画です。

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会場になったせんだいメディアテークのライブラリー

それぞれ、単独におこなわれた、インタビュー映像(ただし、どのような趣旨の映像作品をつくるためのインタビューであるかは各出演者に説明されている)を、監督が丹念に切り取り、一度断片化したうえで、つなぎ合わせることで、掛け合いのような雰囲気が生まれ、一種の群像劇のように、面白く見れる構成になっています。私も、大変興味深く、飽きずに拝見しました。

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上映会場となった7階の映像ホール

1970年代から現代にいたるまでの、日本の建築の大きな流れを短時間で俯瞰できる作品であり、建築専門外の一般の人たちが建築の世界を垣間見て、より理解を深めるためにはよい作品であるように思われました。

1990年代から盛んになった、オーラル・ヒストリーの映像版ともいえるでしょう。しかし、当然、短時間にまとめるために、またストーリー展開として面白くするために、捨象したり、順番を操作したりすることは、監督の恣意的な行為としてなされているわけで、そこには何らかの思想や、感情(好き嫌い)が入り込む余地があります。

(新聞やニュースでも、会社によって論調が異なり、ある新聞ではいい人が、別の新聞では悪い人のように描かれることもしばしばあります。)

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聞き取った者、編集した者の恣意的な作業という以前に、インタビューを受けた当事者が、真実を語っているとは限りません。この映画の出演者はみな、百戦錬磨のつわものぞろいなわけですから、皆が知りうる事実を曲げない程度に、自分たちに有利なように語っている可能性もありますし、錯誤(思い違い)でしゃべっている可能性もあるわけです。

石山友美さんは建築家・石山修武さん(1944年生まれ)の次女であり、ご自身が建築の専門教育を受けています。少なくとも日本人の出演者はそれを少なからず意識して話をしているでしょう。いい加減な嘘はつけないなと思いながら、ある面、心を許しながら、一方では警戒して。

そういう意味では出演者の言葉を引き出すのに監督の属性や性格が与えた一定の効果があり、そして収録を終えたすべての映像を見たうえで、どの話者のどの言葉を信じ、どうつなげたのかということも含めて、今回、石山友美さんがいて初めてこの映画が成立しえたし、彼女が反射望遠鏡の反射板のような存在でもあり、ストーリーテラーでもあったのだろうと思います。(それはどんなドキュメンタリーであってもいえることかもしれませんが。)

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上映開始を待つ会場

1982年、磯崎新に誘われて国際建築会議P3に出席した、同じ1941年生まれの二人の若い建築家、安藤忠雄と伊東豊雄。その二人は当時、小住宅に取り組む、世界的には無名に近い存在であったが、その後同じように時代の流れに乗ってスターダムにのし上がったという共通項に重きを置いて描かれており、二人の差異は、本人たちの語りからしか判断できない。その差異にまでは作品は踏み込んでいない気がしました。

例えば、バブル崩壊直後の1995年の阪神・淡路大震災に対する安藤の反応と、2011年の東日本大震災に対する伊東の反応を、ほぼ同列に扱うことは少し乱暴ではないかと思われ、その二つの震災に挟まれた16年という短いとはいえない年月に、二人の建築家がなした活動や言論にも焦点を当てて、二人の歩んだ道の違いについて考察してみる必要があったのではないかと感じました。しかし、上述のこの作品の成り立ちからすれば、これが限界だったのかもしれません。

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写真中央が石山友美監督。「だれも知らない建築のはなし」は映画の配給会社がつけた邦題で、石山自身は当初違和感があったが、実際に劇場で見た一般客の反応をみて、この邦題でよかったと思うようになったという。

上映後、石山監督と東北工業大学で近代建築史を教えられている福屋粧子さんのトークと質問会がありました。出演者から受けた印象などについても、聴衆をふくめて、さまざまな意見がありましたが、出演者の中で誰が「いい人」で誰が「悪い人」というのは、この映画を見ただけの判断では、上滑りな評価にしかならないのだろうと思いました。黒澤明の『羅生門』ではありませんが、百人いれば百人の語る真実があり、その中で確からしさをつかむことの難しさ、そんなことを考えました。いろいろな意味で有意義な時間でした。今回の上映会を企画・運営された主催者に感謝します。

私が、このトークで一番面白いと思ったのは、石山監督のお姉さん(石山修武さんの長女)が、「私の夢は三井ホームにすむこと」と、(ある年ごろから?)言い続けていた、という石山監督の打ち明け話でした。(笑)