9月19日から27日まで、アメリカに建築視察旅行に行ってきました。

いままで、日本からニューヨークについて、ピッツバーグ郊外のライトの落水荘などを見ながら西に移動し、フォートワースにあるカーンのキンベル美術館に行ったところまでを紹介しました。

9月22日のフォートワース現代美術館(Modern Art Museum of Fort Worth)から再開します。

フォートワース美術館は、私の師である安藤忠雄先生の作品です。

1997年に行われた、指名形式の国際設計競技により、建築家が決定されました。

その敷地の最大の特徴はキンベル美術館というルイス・カーンの最高傑作が隣接して建っていることだったといいます。ルイス・カーンとの対話(もちろんキンベル美術館を介してのという意味です)を試み、そこから抽出される明晰さ、単純性ゆえの強さといった空間のエッセンスを組み込んでいくことを考えたそうです。

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キンベル美術館の通用口を出ると、このような彫刻が見え、道路を渡り斜め左に進むと、
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Richard Serra の 「Vortex」という巨大な彫刻が見えてきます。

 

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さらに進むと左手にエントランス・ポーチが現れます。
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エントランス・ホールです。すぐに水庭と、Y字柱に支えられた、特徴的な庇が目に飛び込んできます。

キンベル美術館の包み込まれるような人間的なスケールを体感した後だったので、かなり巨大な空間という印象をもちました。

フォートワース美術館は、現代美術を扱う美術館ということで、作品のサイズがかなり大きな場合を想定しなければならないため、おそらく、美術館を企画した財団からの要請で、このようなスケールになったのだと思います。それがなければ、平面的にも断面的にももう少し小さくしたかったのでは、と感じました。

入場料は10ドル。キンベルは無料だったので、それとは比べられませんが、NYの美術館は25ドル以上とるところが多かったので、比較的良心的な価格だと思います。

フォートワース美術館 HP

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コンクリート打ち放しの直方体の展示空間を、ガラスの箱(アルミカーテンウォール)が包み込んだ、入れ子構造のユニットが、合計5連、並んでいる構成。手前側に長い2連、奥側に短い3連。エントランスホールに接したテラスから奥側の3連を見ている。
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同じ位置から右を見ると、楕円形平面のレストランが見える。
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エントランス・ホールの吹き抜けを貫いているブリッジ

 

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レストラン側から展示棟を見る
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写真中央付近がエントランスホール。その左がレストラン。右が庇のついた、短い方の展示棟ユニット。

 

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全景。最終的な設計案は5連ですが、コンペ案は、カーン(キンベル)へのオマージュで、6連だったと記憶しています。予算や規模の問題で、コンペ当選後の話し合いで5連に変更されたのだと思います。雑誌の記事などを見ると、「今のところ5棟」と書いてあり、増築の可能性を示唆しています。確かにそのための余白がありますね。

「フォートワースの文化地区の都市公園内に位置し、およそ44,000㎡の敷地をもつ。与えられた広大な敷地に対しては、内外の区別なくどこにいても芸術を感じることができる「芸術の森」とするコンセプトを構想した。まず敷地東側に広い水庭をとり、交通量の多い交差点に対しては森を配して、水と緑で囲われた環境を整えた。」という。

「フォートワースはテキサス州の砂漠の中にできた町で、石油と牧畜が主な産業です。その郊外にある公園内に敷地があるのですが、設計当初考えたのは、砂漠という過酷な環境で、オアシスのように人々が集まる場所をつくりたいということでした。・・・・・・数年後には建物を隠すほどに成長した自然の森が、現代美術に囲まれた文化の森になると。それが教会に替わる、21世紀の人々の集まる場所になればと考えたわけです。」(「GA JAPAN 62」より)

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展示ゾーン入口付近の企画展示室にのぼる階段
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上の写真の右側の曲面壁の裏側は展示空間になっています。作品はアンゼルム・キーファーの「Book with Wings」
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企画展示室のある2階レベルの写真。自然光をトップライトにより取り入れ、半透明のヴォールト天井で光を拡散させている。
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1階展示室
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コンクリートの箱とガラスの箱の間の展示室
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2階展示室は、自然の光も採り入れている。
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LED掲示板をつかった作品で、それぞれの列の文字が縦方向に流れており、ときどき全体が波打つように変化して文字が消えたりします。

この展示室は、コンクリートの箱の妻側の壁をなくして、池と視覚的につながった比較的大きなスペースとなっています。ガラスに反射して、池の上まで展示物が伸びているようにも見えます。

「同じ美術館でも、「キンベル」は、印象派の絵が多く、トップライトによる均質な光環境からなる、静かな展示室構成です。それに対しこの美術館では、現代美術が展示されるため、ヴォリュームもより大きく、開放的でダイナミックな構成にするべきだろうと思いました。そこで、当初から展示作品を前提とした空間をつくることになったのです。場合によっては、それぞれの作家とコラボレーションする形で展示室の計画が進んでいきました。」(同上)

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ドナルド・ジャッドの作品
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2層吹き抜けの展示室
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建物の一番北側にある、1階から2階にのぼる階段
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西妻側にある展示室
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西側の屋外彫刻庭園

 

「つまり、必ずしも展示室は、どこでも同じ美しい光が入ってくる、静かな空間である必要はない。具体的には、様々なトップライトやハイサイドライト、外光が直接入るガラス・スクリーンに面したスペースや外光が反射して入ってくるスペースなど、様々な光の扱いで全く違う展示空間ができると考えたわけです。その展示室を、四列のコンクリートボックスの中、その隙間、あるいは水庭やガラスに面して並べる。廊下でつながれた部屋から部屋を移動するというよりも、空間を巡ることが、美術作品を巡っていくことと同じような感じになればと考えました。」(同上)

安藤事務所に勤めていたことを話すと、普通は見ることができない裏方などのスペースも見せていただくことができました。学芸員のAlison Hearstさん、ご案内いただきありがとうございました。

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講堂
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学芸員室
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ミーティング・ルーム兼ラウンジ
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セラの彫刻が間近に見える学芸員の部屋。
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地域の児童・生徒たちのための美術教室
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額などを加工する工作室
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荷捌室。工作室や荷捌室、機械室などは、地下一階のレベルにある。
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清掃用具。日本のほうきのようなものがあったが、繊細なものをあつかう美術館では重宝するのだろうか?
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ハイサイドライトからの光をさらに回折させて採りこんでいる
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展示室に置かれた、休憩用ベンチ
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壁と梁と床板が取り合うところ
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ANDO CORNER
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MUSEUM SHOPには、日本グッズが並んでいる。ひらがな、カタカナの練習帳や「半紙と筆」も。