2018年8月1日、その日鶴岡市に新しくオープンした、「ショウナイホテル スイデンテラス」に行ってきました。

I visited SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE designed by Shigeru Ban Architect in Tsuruoka City, Yamagata Prefecture, Japan.

当日、たまたま同じ庄内の酒田にある東北公益文科大学に仕事で行っている時に、このホテルを企画・建設し、運営にあたられるヤマガタデザインから、プレオープンと見学会の案内のメールをいただき、急遽行ってみることにしたのです。

敷地は同市内のサイエンスパーク内にあります。隣接して、慶應義塾大学先端生命科学研究所や、それに関連したベンチャー企業の社屋・研究施設などがあるような立地です。(→鶴岡サイエンスパークに関する新聞記事

鶴岡市といえば、最近、妹島和世設計の荘銀タクト鶴岡(←このブログの記事)が竣工したことが記憶に新しいところかと思います。

この「スイデンテラス」を設計したのは、建築家・坂茂です。フランスのポンピドゥーセンター・メスラ・セーヌ・ミュージカルなど、海外でも公共性の高い建築を手掛けています。

2014年には国際的な建築賞であるプリツカー賞を受賞、また2015年度には、同氏設計の大分県立美術館JIA日本建築大賞を受賞するなど、国内外で目覚ましい活躍をされています。

そういえば、以前このブログで取り上げた韓国のゴルフクラブハウス(Haesley nine bridges golf club house)も坂茂の設計でした。

坂氏がホテルの設計を手がけるのは意外にもこれが初めてだとのこと。

どんな新しい建築が鶴岡に生まれたのか、期待しながら近づいていきました。

On that day, while I was at Tohoku University of Community Service and Science in Sakata, which happens to be in the same Shonai region of Yamagata, I received an email from Yamagata Design, the company responsible for planning, construction, and operation of this hotel. They invited me for a pre-opening and tour. So, I decided to make an impromptu visit.

The site is located within the Sakata Science Park in the same city. It’s in proximity to Keio University’s Advanced Life Science Research Institute and various venture companies’ office buildings and research facilities. (See a newspaper article on Tsuruoka Science Park.)

Speaking of Tsuruoka, you might recall that recently, the Shogin Tact Tsuruoka by Kazuyo Sejima Design (article from this blog) was completed.

The “Suiden Terrace” was designed by architect Shigeru Ban. He’s known for designing public buildings both in Japan and abroad, such as the Pompidou Center-Metz in France and La Seine Musicale.

In 2014, he received the prestigious Pritzker Prize, an international architecture award, and in 2015, the Oita Prefectural Art Museum, also designed by him, received the JIA Japanese Architecture Award, showcasing his remarkable accomplishments both domestically and internationally.

By the way, I previously featured the Haesley Nine Bridges Golf Clubhouse in South Korea on this blog, which was also designed by Shigeru Ban.

Surprisingly, this is the first time Shigeru Ban has undertaken the design of a hotel. So, I approached the project with high expectations to see what new architecture was born in Tsuruoka.

駐車場から見る

鶴岡の宿泊施設の客室数は以前より不足しており、大きな会議・イベントがあるとすぐに予約が取れなくなってしまうそうです。鶴岡を訪れるビジネス客や観光客のために、地域の恒常的な客室数不足を補うことがひとつの目的でしょうけれど、それを超えて、庄内の原風景を顕在化し、その魅力を再発見する場を創出しようとしているようです。

The number of accommodation options in Tsuruoka has been insufficient for some time, and it quickly becomes fully booked when there are major conferences or events. It seems like one of the main objectives of this new hotel is to address the ongoing shortage of hotel rooms in Tsuruoka for business travelers and tourists. However, it goes beyond that; it aims to bring out the authentic beauty of the Shonai region and create a space where visitors can rediscover its charm.

アプローチ
左が歩道、右が車道
館名サイン     ステンレス鏡面仕上げにエッチング加工で文字入れか       上向きに設置されているので、少し離れると客自身の姿ではなくその日の空を映す
徐々にエントランスのある共用棟に近づいていく   この木製の矢来はアプローチだけでなく施設外周部のところどころに設けられている
エントランスのサイン    風除室のガラスに直接文字入れ(カッティングシート貼?)

ヤマガタデザイン代表の山中大介さんはこのホテルのコンセプトを以下のように語られています。

自然体で過ごす交流と滞在の拠点

海・山・川・平野、
自然の恵みで満たされた山形庄内。
2014年に移住してから現在に至るまで、
日々、この地域の美しさに魅了され続けています。

SUIDEN TERRASSEは、
山形庄内を象徴するランドスケープの一つである”水田”から着想を得ており、
訪れる方々が、木造2階建の温もりある空間の中から原風景を臨み、
自然体で過ごすことをコンセプトとした宿泊滞在複合施設です。

山形庄内で暮らす私たちが、
実際に家族や友人、ゲストをお招きしたくなる。
山形庄内で暮らす私たちも、
普段は見過ごしがちな地域の魅力にワクワクする。
流れる時間の中で交流が育まれる。
そんな施設づくりを目指しています。

SUIDEN TERRASSEの存在が、
すべての人々の幸せに繋がることを願い、
皆様のご来場を、心よりお待ちしております。

YAMAGATA DESIGN
代表取締役 山中大介 

(公式HPより)

Daisuke Yamanaka, the representative of Yamagata Design, describes the concept of this hotel as follows:

“A base for natural and communal living”

Sea, mountains, rivers, and plains, The Shonai region in Yamagata, filled with the blessings of nature. Since I moved here in 2014, I have been continuously captivated by the beauty of this region.

SUIDEN TERRASSE takes its inspiration from one of Shonai’s symbolic landscapes, “rice paddies.” It is a complex accommodation facility with the concept of allowing visitors to observe the original scenery from a warm, two-story wooden space, where they can relax naturally.

Living in Shonai, we want to invite our families, friends, and guests. We, who live in Shonai, also get excited about the charm of the region that we often overlook in our daily lives. Interaction is nurtured over time.

We aim to create a facility that promotes these interactions.

We hope that the presence of SUIDEN TERRASSE will contribute to the happiness of everyone, and we sincerely look forward to your visit.

Daisuke Yamanaka Representative Director, YAMAGATA DESIGN

(From the official website)

会社設立からホテル建設までの物語は、こちらに詳しく載っています。→Business Insider Japan

この写真の奥に見えるのが風除室    車止めのような太いパイプ(ステンレス製か)が見える
受付、ロビーは階段をのぼった2階にある。  この写真で見るとタイヤとガラスと車止めの位置関係が微妙(車止めの視覚的ではなく物理的な機能として)
階段ディテール    全体の完成度からするとノンスリップの質感が、質素というよりややチープな印象
木製の手摺壁には溝が彫られ補助手摺の役割を果たすようになっている
同ディテール
受付カウンター   坂さんが初期から使われている紙管パイプが、この建物でも多用されている。
共用棟は、1階は鉄筋コンクリート造、2階は木造(+鉄骨、RCのハイブリッド?)
大スパン中間には柱はなく、水平方向にのびやかな空間となっている。コンクリートのコアで、一部水平力(および鉛直荷重)を受けているようだ。
上の写真の左奥にあたる部分。レストランとの仕切りは、紙管でつくられたスクリーン

受付の左奥にはライブラリー

1階エントランスから受付へとのぼる階段
基本的に屋根は折板構造なのだろうか。屋根が横に広がろうとするのを抑えるためと思われるスチールのタイロッドが見られる。
この鉛直材は押し上げには効かないので、タイロッドが下に来すぎて、邪魔な感じがしないように支点位置を固定するためのものだろうか?
2階受付前のロビー空間
単純な木造ではなく、鉄とのハイブリッドになっている
受付に向かって右側にあるショップ  ショップのエリアの壁柱は、正方形の孔の向きと大きさがエントランスまわりのものと違う

同上     天井に、ガラス製の防煙垂れ壁のようなものが見える。

勾配天井で天井高の一番低いところが3mを超えない場合、天井に平行に垂れ壁を設置する形になるようなのだが、折板形状でもあるのでどうなのだろう。排煙の考え方を含め、建物全体をシンプルに見せるために、いろいろなところで目に見えない工夫をしているようだ。

Similarly, there is something like glass smoke curtains on the ceiling.

In the case of a sloping ceiling, where the lowest point of the ceiling does not exceed 3 meters in height, it seems that smoke curtains are installed parallel to the ceiling to facilitate smoke exhaust. However, it’s worth considering how this design, which also serves as a folded shape, works in practice. It appears that they have made various hidden design choices, including the approach to smoke exhaust, to maintain a simple and uncluttered appearance throughout the building.

上部ガラリ ディテール
ショップでは、地酒、おつまみなどが売られている
冷蔵庫は木の枠で囲われて、家具と調和している
庄内ゆかりのさまざまなものが置かれている

「山形と庄内のオトナのお土産」をテーマに、施設内でお買い物ができるショップをご用意しています。米どころ山形から厳選した地酒とおつまみグルメ、地元のクラフト作家が丹精込めた雑貨/アクセサリーなど、オトナだからこそ楽しめる、山形と庄内の逸品を取り揃えています。(公式HPより)

They have prepared a shop within the facility where visitors can shop, with the theme of “Adult Souvenirs from Yamagata and Shonai.” They offer a selection of fine local sake and gourmet snacks from Yamagata, as well as handicrafts and accessories meticulously crafted by local artisans. These items are carefully chosen to provide a delightful selection of unique products from Yamagata and Shonai that adults can enjoy. (From the official website)

案内サイン        このショップの奥を左に折れるとY棟である。     共用棟を中心にY棟、H棟、G棟が配され、ブリッジで結ばれている基本構成。各宿泊棟から円形のスパ・フィットネス棟にはG棟を経由していく
宿泊棟はG等、Y棟、H棟がある。それぞれ、出羽三山の、月山、羽黒山、湯殿山の頭文字から命名されている。

ブリッジ(後述)をわたり、宿泊棟(Y棟)へ

共用棟から宿泊棟(Y棟)へ渡るブリッジからエントランス・アプローチを見る
Y棟のメゾネットタイプのスイートルームの上階(2階)ここが入り口を入ってすぐの場所でリビングにあたる  これらの椅子も紙管を用いた坂氏のデザイン
右を見るとTVやソファーベッド
TVとキッチンが収められた家具  下の戸袋を開くと冷蔵庫や空気清浄機が収められている
左を見ると中庭がある。 このカウンターテーブルの奥に1階への階段があり、それを降りていくと寝室へといたる。
同スイートルームの1階の寝室

同見返し

寝室に隣接した浴室
浴室の右にある洗面所
2階へとのぼる階段

この部屋はソファベッドを使い、最大4名まで泊まることができ、宿泊料は一室3万円(おそらく朝食付き)とのこと。

宿泊室の廊下
廊下に見える柱のアップ。節有集成材。
宿泊棟の廊下を歩いているとところどころで階下の中庭が見える   屋根瓦が地面に埋め込まれた意匠となっている この瓦は実は熊本から運んできたもの(後述)
ダブルベッドタイプの部屋  シングル専用の部屋はなく、一人で泊まる場合でもこのタイプを使う  シングル利用の場合一泊9800円(朝食付き)

天井には枕の上あたりにある小口径のダウンライト以外の設備はついていない。(一部、感知器類あり)

丸いテーブルの脚も紙管。このテーブルは、写真ではカウンターと一体化されているが、スライドして単体としても使える。

The ceiling features small-diameter downlights around the pillow area, and apart from that, there are no other visible fixtures (except for some sensors).

The legs of the round table are also made of paper tubes. While the photos show the table integrated with the counter, it can be slid out and used as a standalone piece.

紙管でつくられた照明器具  某建築家へのオマージュとの説明あり  フランク・ロイド・ライトのことだろうか?
ヘッドボードも紙管でできている。  徹底的。ベッド横の置き台と照明のスイッチ、コントローラー
アメニティグッズ    タオル置きも紙管で構成されている
廊下の突き当たりは風景が切り取られて見えるようになっているところが多い
室名サインディテール
ツインタイプの客室  客室の冷暖房は基本的にTV上に設置されたルームエアコンによる。床暖房は入っていないが、地下水の熱を利用した輻射冷房が導入されているとのこと。地下水の熱は融雪にも使われ、館内を巡った後に、建物周囲を囲む水田へと放出される。
同見返し

坂氏の他の作品と同じように、内外装には、木の色や生成りなど、彩度が低い自然の風合いの仕上げが用いられている。この建物では、そのことによって、空の青や稲の緑など、窓の外の周囲の自然の色彩がより映えるだろう。

As with Shigeru Ban’s other works, both the interior and exterior of this building are finished with low-saturation natural textures such as the colors of wood and unbleached materials. This design choice allows the surrounding natural colors, like the blue of the sky and the green of the rice fields, to stand out more when viewed through the windows.

廊下や客室内に使われている、クリーム色のレンガ調のタイル
別のツインタイプの客室、左にエントランス棟、奥にH棟が見える。中央の土の部分には水が張られる。

 

 

 

 

基本的には水田にしたかったそうだが、法的規制の問題で、行政との協議の結果、一部は水稲が植えられるが、全部ではなく、水が張られるだけの部分もあるとのこと。水稲は修景用で米を採る目的のものではないそうだ。食する目的で稲を育てるにはたいへんな手間がかかるのだろうが、この水田で育てられた米を朝食で味わえたら、宿泊者には忘れられない思い出として残ると思う。が、それは現状では難しいようだ。The original plan was to have rice paddies, but due to legal regulations, after discussions with the authorities, only a part of the area is used for planting rice, while in some areas, water is merely filled without planting rice. The rice planted here is for landscape purposes and not intended for harvesting. Growing rice for consumption is a labor-intensive process, and it seems that currently, it would be challenging to offer guests rice grown in these paddies for breakfast. It would undoubtedly be a memorable experience for the guests if it were possible.
中庭に面した、落ち着いた雰囲気のダブルルーム

「華美ではない、シンプルな美しさを追求した、木造ならではの温もりのあるお部屋です。GASSAN、HAGURO、YUDONO、出羽三山の名称を冠する3つの棟には全143部屋が配置され、寛ぎの広さを約束するダブル、ツイン、スイートタイプのお部屋と、団体利用を受け入れるグループタイプのお部屋の計4種類をご用意しています。窓からは庄内平野の原風景や中庭など、趣ある景色を臨むことができます。」(公式HPより)

 

宿泊棟 共用部階段手摺 ディテール

“It is a room with a simple and warm wooden beauty, avoiding extravagance. A total of 143 rooms are divided into three buildings, each bearing the names GASSAN, HAGURO, and YUDONO, promising spacious comfort. We offer four types of rooms: double, twin, suite, and group rooms for accommodating larger groups. From the windows, you can enjoy charming views of the original landscape of Shonai Plain and the inner courtyard.” (From the official website)

宿泊棟の階段室。宿泊棟は基本的に木造だが、エントランス棟と宿泊棟を結ぶブリッジを支えているこの部分は、RC造となっている。
このRCでできた部分にはエレベーターが設置されている   呼び出しボタンのプレートが同面に収まるようにコンクリート面にヌスミがとられている
Y棟からブリッジをわたり、共用棟に戻る
ブリッジの窓際には柱間1スパン置きにPSのパネルヒーターが設置されている
共用棟妻部のテラス      広々としている
ライブラリー     その奥がレストラン
アート関係から、動植物に関する本、絵本まで、施設のイメージに合わせてセレクトされたと思われる本が並んでいる

「オトナもコドモ コドモもオトナ」をテーマに、 1,000冊規模のミニライブラリを設置しています。 自分を大きく見せることなく、 相手を小さく見ることなく。 この街に暮らす人、この街を訪れる人、 みんなが等身大に出会えることを願い、 オトナが自分の素に戻れるような本を セレクトしています。本は施設内であればどの場所でも 自由に閲覧いただけます。大切にお読みください。」(公式HPより)

上の本棚中央の通路に面して多目的トイレがある  ここに至る通路幅ちょっと狭い?
ライブラリーからレストラン方向に歩いていく
レストラン入り口
RC打ち放し壁のくぼみに仕込まれたベンチも紙管によるもの
レストラン内部   この部分は壁柱の孔が円形になっている   構造上の理由というよりもデザイン上の細やかな配慮、遊び心か
レストラン奥より
左側にテラス     レストランはホテル宿泊者以外も使うことができる。ランチ等も予定されている。

地産地消にこだわった旬を味わう膳「庄内しぜん定食」を提供します。 お米や野菜、庄内浜の地魚など、素朴で美味しい食材の旬を大切に、 無添加・オーガニックにこだわってお届けします。 天気の良い日には月山一望のオープンテラスを開放。 庄内の地酒もお楽しみください。お席やお食事、パーティーのご予約も承っております。 ご宿泊者以外の方のご利用も可能です。(公式HPより)

レストラン  カウンター席
同上
鉛直荷重と水平力を受けるために設置された斜め格子状の木集成材の壁柱      それと直交方向には短辺方向の水平力に抵抗するためと見られる三角形の構造部材があり、ベンチが取り付いている
ライブラリー

共用棟の空調は、二つのコアの上部のルーバーと、窓際の床に設けられたグリルを使ってなされているようだ。

H棟への渡り廊下(ブリッジ)
工事中の大浴場(スパ&フィットネス棟)天然温泉で、中央部が女湯、外周部が男湯となり露天風呂もある     入れ替えはしないとのこと   (外周部は周囲が水田で比較的見えやすいため、女湯は難しいとの判断)  ブリッジの下地が観察できるが…  ホテル宿泊者が利用できるだけでなく、客室と大浴場をセットにしたデイタイム会員の利用も可能。(風呂のみの単独利用は想定していない)

「運動してリカバリーするための温泉/フィットネスをご用意しています。温泉は地下1,200Mから汲み上げた天然温泉(泉質:ナトリウム・カルシウムー硫酸塩・塩化物温泉)を、源泉掛け流しで提供しており、フィットネスは、全身運動と持久系トレーニングを軸としたマシン機器を取り揃えています。 ※本施設は宿泊者とデイタイム会員のみ利用が可能です。」(公式HPより)

ホテルのすぐ近くには、同じヤマガタデザインの経営する、子供のための遊戯施設が建設中である。これも坂茂の設計である。中にはボルダリング、その他の遊びが用意される。ホテルとは別で有料(会員制の運営)    KIDS DOME SORAI
奥に見えるのが、共用棟のレストランに隣接したテラス
建物外観     共用棟と宿泊棟は2階でブリッジにより結ばれ、地上部は通り抜けできるように開放されている
共用棟の妻部にあるテラス
1階がRC造で2階が木造と鉄骨のハイブリッド(一部RCコア有)
建物の周囲には清水が巡り、水田へと導かれる
ベントキャップ(換気口)ディテール
H棟外観 この手前の土の部分もやがては水面になる
ブリッジを受ける部分はRC造となっている。このRC部には、 大規模木造の法的な面積規制をかわすために設けられた、耐火性能の高い部分(防火壁)という意味もあるのだろうか。
輻射冷房、融雪などに利用された地下水は、館内を巡った後、この円筒形の水の湧き出す池(水のオブジェ)へと導かれ、それが水路を介して、周囲の水田へと流れ込む仕組みとなっている。
水路にはところどころ瓦が  おそらく、中庭の敷き瓦と同じく、熊本地震の被災地からもってこられたもの(後述)
共用棟の一階部分。車椅子用駐車場、駐輪場として使われるピロティ
RCコアとRC床版の間には、2階床版が浮いた感じを出すためか、鏡が張られている
同上
エントランス・アプローチ周り
同上      ブリッジは相当なスパン飛ばしているのに太い梁も見えず軽やかだ    構造的にはフィーレンデールとして解いているのか?
共用棟  屋根端部ディテール 客用出入り口の上部にだけ雪止めが設置されている
共用棟(左)と宿泊棟(Y棟・右)
共用棟とブリッジの接合部(エキスパンションジョイント)
ブリッジは鉄骨造+コンクリートの床版の組み合わせ
RCの基礎は地面にべたっとつけずにキャンティ(片持ち)スラブとして、軽く見せている
宿泊棟の周囲に巡らされた自然石(砕石)による水路
宿泊棟の中庭には室外機置き場があるが、木製のルーバーで目隠しされている
中庭にはデザインとして瓦が埋め込まれている。これは熊本地震の被災地から持ってきたもので、倒壊した家屋の屋根に使われていたものだそうだ。瓦は重量もあり、産業廃棄物として処理することも大変であることから、遠く鶴岡まで運んできてランドスケープに使ったのだという。坂氏は世界各地で災害復興の支援をしているが、熊本で瓦の処理に困っている様子をみて閃いたものだろうか?経済的にはそれほどメリットがないはずだから、被災地を支援するという気持ちの部分が大きいのだろう。

坂さんは、VAN(ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)というボランティア組織をつくり、20年以上前から、世界のどこかで災害が起こると被災地を、建築家の立場から支援するという活動をされています。先日の西日本豪雨の際も、一時避難所の体育館に、紙管と布で間仕切りをつくられていました。(→新聞記事

Shigeru Ban founded VAN (Voluntary Architects’ Network), a volunteer organization, over 20 years ago. Since then, he has been involved in providing architectural support to disaster-stricken areas around the world when disasters occur. During the recent heavy rainfall in western Japan, he even created partitions in the gymnasium of a temporary evacuation shelter using paper tubes and fabric. His dedication to humanitarian and disaster relief efforts is truly admirable.

VAN/ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(ボランタリー建築家機構)は、坂茂が1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)後、神戸で建築面での被災地支援のためにたちあげたボランティア組織。英語表記はVoluntary Architects’ Network (VAN)。VANは仮設住宅や教会の仮設集会所の建設を行い、その後の坂の国内外の被災地支援でも活動している。2013年に特定非営利活動法人化。(Wikipedia「坂茂」より)

 

この写真の上部中央にも見えるが、宿泊棟のところどころに銅の平板のようなものが付いていた。機能があるのか質問したら、意匠的なアクセントということだった。

宿泊棟妻面のディテール
木の梁を壁を伝う滴りから保護するかのように、大きな水切りが付いている   カーンのブリティッシュ・アートセンターのディテールを思いだす
施設の外周部には木製の矢来が断続的に巡らされている   防犯というよりも、修景(デザイン)の意味合いが大きいだろう。アプローチ部とは異なり内側は支柱のみが見える。
エントランス棟(中央)とH棟(左)G棟(右)
H棟外観   この手前も水が張られる

「建築の設計に当たって、今回最重要に考えたことは、初めて敷地を見に行った時の美しい水田の風景をいかに保ちながら、そこに建築を優しく挿入するか、ということです。 四季折々表情を変える水田風景に、いかに建築を調和させるかが重要でした。 構造的には、基礎部やコア部分以外木造とし、水田風景に馴染むよう考えました。」(設計者・坂茂のことば:公式HPより)

施設全景

9月19日にはスパ&フィットネス棟も完成、利用できるようになり、グランドオープンするそうです。

その時には、私もまたここを訪れて、今度は実際に泊まって体験してみたいと思います。

全143室、シンプルなデザインでありながら、決して安っぽくはなく、空間の質も高い建物なので、出羽三山、庄内の食文化などを楽しむ遠方からの観光客の需要、近郊からの週末リゾート、そしてシングル1万円を切る価格設定からビジネスユースなど、さまざまな客層にアピールできそうです。

鶴岡には、冒頭でも述べた荘銀タクト鶴岡などの話題作ができていますが、このスイデンテラスも評判を呼びそうですね。

The Spa & Fitness building is set to be completed and open for use on September 19th, which is when they’ll have the grand opening. At that time, I also plan to visit this place and experience it by staying here. With 143 rooms and its simple yet high-quality design, this building has the potential to appeal to a diverse range of guests, including tourists from afar looking to enjoy the Dewa Sanzan and Shonai’s culinary culture, weekend resort-goers from the nearby region, and business travelers with its pricing below 10,000 yen for a single room. Tsuruoka has seen the emergence of notable architectural works such as the mentioned Shozan Tact Tsuruoka, and it seems that Suidenterrace is poised to garner its fair share of attention as well.

(荘銀タクト鶴岡では、8月26日(日)に、JIA 東北支部と大光電機の共催で、設計者の妹島和世氏の講演会・見学会・演奏会が開催されます。入場無料です。詳しくはこちら  。どなたでも申し込みになれます。 )

 

水田には地下水が張られるということもあり、修景だけではなく、特に今年のような猛暑では、この施設を取り巻く微気候を緩和する効果も期待できるでしょう。スイデンテラスは、庄内の風土も含め、よく考えられたコンセプトに基づく建築です。

季節によって、苗が植えられたばかりの水田に映える空、青々とした稲が風にたなびく様子、黄金色の稲穂の絨毯、雪景色の向こうにそびえる月山など、さまざまな光景を宿泊者は見ることができるのでしょう。それがリピーターを呼ぶひとつの仕掛けになるのかもしれません。

田んぼに包まれた施設の、四季の表情の変化をみることが私もいまから楽しみです。

Given that underground water is used to fill the rice paddies, Suidenterrace is expected to have an effect not just on the landscape but also in mitigating the microclimate around the facility, particularly during extremely hot summers like this year’s. Suidenterrace is a well-thought-out building with a concept rooted in the local culture and environment of Shonai.

Depending on the season, guests can enjoy various views, from newly planted rice paddies reflecting the sky to lush green rice swaying in the wind, a carpet of golden rice ears, or the distant Mount Gassan against a snowy backdrop. These changing landscapes are likely to be a draw for repeat visitors. I’m also looking forward to experiencing the seasonal transformations of the surroundings enveloped by rice fields.

施設概要
名 称 SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE
ショウナイホテル スイデンテラス
所在地 〒997-0053 山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
施設規模 共用棟 地上2階
宿泊棟3棟【GASSAN・HAGURO・YUDONO】地上2階
温泉棟 地上2階(2018年9月19日オープン予定)
施設内容 ・客室:全143室
 (ダブルルーム85室/ツインルーム40室/メゾネットルーム9室/スイートルーム2室/グループルーム7室)
・レストラン/バー 営業時間6:30~24:00(館内80席/テラス席20席)
・ショップ 営業時間7:00~23:00
・ライブラリ 営業時間7:00~23:00
・ビジネスルーム(貸会議室)11室 利用時間8:00〜20:00
・天然温泉スパ&フィットネス(※2018年9月19日オープン予定)
・駐車場 150台(無料)※館内禁煙(喫煙所1箇所のみ)
館内設備 ・ランドリールーム (G棟・H棟・Y棟1F/Y棟2F)
・製氷機 (G棟・H棟・Y棟1F)
・自動販売機 (G棟・H棟・Y棟1F)
・Wi-Fi (共用棟/全客室)
※天然温泉スパ&フィットネスはバリアフリー非対応
バリアフリー対応 対応客室あり・フロア間エレベーターあり・車椅子貸出可
ベビー用品 ベッドガード(無料)・おねしょ用シート(500円)・ベビーベッド(1台 3,000円)
入湯税 150円
受付時間 チェックイン15:00~24:00
チェックアウト5:00~11:00
カード情報 VISA・MASTER・JCB・AMEX・DINERS
ペット 不可

(案内図と施設概要は公式HPより転載)