前回の和歌山県立近代美術館の向かい(前面道路からみて奥の方)にある、和歌山県立博物館です。

美術館と博物館が、文化ゾーンに隣接して建てられる事例は結構ありそうですが、同じ建築家が二つの施設を同時に設計し、施工も一括で行われるということは珍しいのではないかと思います。しかも二つの施設は地下でつながっており、設備系統は共有化されています。実質は一つの建物に二つの機能が入っているかたちです。

設計者選定のプロセスはわからないのですが、黒川さんが当時それだけのっていて、「力」もあったということでしょう。ちなみに、展示工事まで含めた総工費は127億円です。

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エントランス前の広場

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美術館と博物館の位置関係は上図のようになっています。一箇所にギュッと固まっている印象。これだけのゆとりが敷地にあるのなら、もっと回遊性を高めて周囲の自然と対話できるような配置も可能だったのでは、とも思います。

「博物館は1階にエントランスホール,常設展示室,企画展示室を配置,2階は学習室,文化財情報資料コーナーなどを主に配置,美術館とも連絡ブリッジによって結ばれている。」(カギカッコ内は新建築掲載時の解説文)

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美術館とは地下で一体となっているだけでなく、2階レベルでブリッジで結ばれている。

「常設展示室には、文化財の宝庫である紀州の歴史を,原始から近代まで連続して展示することができるよう,30mの長さの空調された展示ケースを4基設置している.」

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博物館 エントランスホール  美術館、博物館を一体でつくるなら、エントランスホールはまとめて一つでもよかったのでは?と思うが、バブル期にはそんなケチ臭い発想は出てこなかったのだろう。

「建築の周辺には灯籠の立ち並ぶアプローチ広場とせせらぎの池を配し,保存樹木である県指定の天然記念物「根上りの松」の位置に合わせて,水上ステージを設けている」

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ダイナミックな吹き抜けのエントランスホール

「能,演劇や音楽など屋外でのさまざまな催し物が企画されるであろう.夕暮れになると,灯龍の明かりや庇を照らすライトアップが,丘の上に白く浮かび上がった和歌山城のシルエットと一体となって,夜の景観を創出している.」

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休憩ラウンジも十分すぎるくらいの空間ボリュームがある。建物の外皮が重く、借景がうまくいっていないような。

写真家の小川重雄さんから、この建物が竣工した1994年は、レンゾピアノの関西国際空港や、安藤忠雄の近つ飛鳥博物館などのビッグプロジェクトが相次いで完成した年だった、何回も関西に撮影に行ったのでよく覚えているというお声をいただきました。

確かに、これら3つの建物を並べてみると、その時代の空気がいきいきとよみがえってくるようです。特にリアルタイムで経験した世代にとっては。

竣工後20年、改修工事などされたのかはわかりませんが、比較的きれいな状態でした。

デザインの好みはわかれるところでしょうが、このようなある種の過剰さをもった建物は、時代背景や施主の思い、建築家の力量が重なり合うという偶然がなければ生まれてきません。

公共性は効率一辺倒ではなく、一見むだなところに宿るものですから、こういった施設のなかの公共空間が市民生活の豊かさに寄与すると期待したいです。

一方で、これだけの施設を維持管理していくことは、少子高齢化で財政がひっ迫していく中では大変でしょう。今から20年後に見に行ったときも、人びとに親しまれ、使われ続けていることを願います。